当たり前だが、ただ一方的に言われるだけの彼女ではなかった。

「進学なんて自由でしょ。自分が行きたい学校を選んで何が悪いのさ。私もお母さんも祖母さんの見栄の為に学校に行く訳じゃありません。そもそも私を『まともな霊術も使えない』とか言ってるくせして、霊術士育成クラスがある学校に行かせようとするとか、言ってる事めちゃくちゃだからね?てか、あんな阿呆みたいに学費が高い学校に行く気なんか無いよ。奨学金なんてお荷物を背負いたくもないし。自分が選んだ学校に自分の実力で合格した事を非難される筋合いなんてありません。第一、時代の関係もあるのはわかってるけど、親に言われて試験も無しに女学校に入学した『だけ』、しかもまともに卒業すらしていない祖母さんが、私やお母さんを恥だの何だのとどの口で言うのさ。悔しかったら今からでも勉強して、大お祖父様達みたいに東大にでも合格してみたら?このオール丙」

という感じだった。瑠子や瑤太が瓊子への反論に加わる余地が無い、苛烈極まりない反撃だった。丁度反抗期真っ只中でもあったので、彼女の舌鉾は殊更に鋭く容赦が無い。後で瑤太が言うには「マシンガン通り越してグレネードランチャーをガトリング砲にしたみたいだった」との事だ。攻撃力というか口撃力の凄まじさたるや、一を言ったら十どころか千も万も返ってくると言えよう。

因みに、瓊子の成績の情報源は、言うまでもなく翠子である。成績の付け方は、上から甲・乙・丙・丁だった時代なので、この物言いになった。時代によって差異があるとは思うが、甲・乙・丙・丁が現代の5段階評価や10段階評価に照らし合わせるとどんなレベルになるか、興味がある方は調べてみるといいだろう。

さて、誤解が無いように書いておくが、彼女は学歴至上主義という訳ではないし、祖母を馬鹿にしている訳でもない。単にひたすら、理に適わない事を言って何処までも人を貶める祖母の言動が許せなかっただけである。

このようにして、彼女は大手を振って志望校に通い始めた。そして最初の体育の時間。必ず通る道と言える体力測定の際。フェンスの植え込みに隠れてカメラを構えていた男達の眼球が壊死し、気付いた教員達が慌てて救急車を呼ぶという事態が発生したのである。