「うん。あのね。小・中・高みたいに、教室で受ける授業とはまた違うものだって事は、理解していたんだよ」
ざわつく講堂の中。『アイギス・シリーズ』説明会の準備をする彼女は、しかつめらしく頷いた。
「授業とは別に、『この研究するよー』って先生の所に集まって指導を受けたり、皆で一緒に研究したりするのが『ゼミ』なんだね」
母と弟から聞いた事を復唱する口調で、彼女は言った。姉に瑤太は「そうだよ」と返す。
「で、霊術士の卵達が霊術士として在る為の特別授業みたいな指導を受けたり研究したりするのが、件の『ナギゼミ』と」
「霊術士専門の塾って言う方が近いな」
「そっかあ。塾かあ。何だか懐かしい響きだなー」
彼女は遠い目をした。姉弟のやり取りを聞いていた孫江社長は、「ふふっ」と笑う。
「仲がいいんだね。司さんと瑤太君。司さんのそういう所も初めて見るな。オフィスでも、今みたいにもっとカジュアルな感じでいいのに」
「いえ。仕事は仕事ですから。何より私は、社員としては1年も経っていない新人ですので」
一転して真顔で――瑤太曰く「社会人モードスイッチオン」の表情で、彼女は上司に言い切った。席の様子を横目で見ながら、小声で語りかける。
「参加者も集まり始めています。社長もどうぞお席におつき下さい。ゼミの先生達もそろそろ…。ああ、噂をすればですね」
彼女の霊術士としての感覚は、同じ霊術士達の気配を捉えていた。講堂のドアが開き、壮年の女性に続いて生徒達が入ってくる。瑤太は小声で「あの人が菅凪教授だよ」と壮年の女性に視線をやりつつ姉に囁いた。彼女は同じく小声で瑤太に礼を言い、とりあえず生徒全員が入室するまで待つ事にした。
今回、いち企業の代表者も顔を出す説明会なので、社長に続く形で教授への挨拶が必要だからだ。そのタイミングを見計らっていたのだが、どうも様子がおかしい。
1人の男子生徒が、教室の入り口で動きを止めていた。先に集まっていた女子生徒達は「刀隠先輩」「刀隠先輩よ」と非常に好意的な、熱い眼差しと共に囁き合っている。どうやら刀隠というらしいその男子生徒は、ただ呆然とした様子で彼女を見つめていた。
「おい。美斗」
「――見付けた」
先に入室していた男子生徒の1人が呼びかけるが、どうやら耳に入っていないらしい。美斗と呼びかけられた男子生徒は、無上の僥倖に巡り会えたような、それでいて泣き出しそうな顔を見せた。しかしそれも束の間、何かを堪えるように表情を引き締めると、彼女に真っ直ぐに歩み寄ってきた。瑤太が反射的に姉の前に出ようとするが、彼女は軽く腕を上げて首を横に振る。上げていない方の彼女の手を、男子生徒はがっちりと握り締めた。心なしか潤んだ目で、男子生徒は彼女を見据える。
「――君、俺の『鞘』だ」
「はい?」
途端にざわつき始める菅凪教授とゼミ生達をよそに、男子生徒は言い募る。
「君が作った霊具を見てから、もしかしたらと思っていた。でも作った君の身元がわからなくて…わかっても、まずは説明会を待つように言われてもどかしかった。今日、やっと君に会えるのが楽しみ過ぎて、一睡もできなかった!」
「いやきちんと寝て下さいよ。遠足前の小学生ですか」
いつものペースでツッコミを入れつつも、彼女は空いている片手で「とりあえずこれ使って下さい。はい」とひとまずポケットティッシュを差し出す。男子生徒はやっと手を離し、「ありがとう」と言いつつ、受け取ったポケットティッシュで滲んだ涙を拭った。そっと近寄ってきた菅凪教授が、遠慮がちに問いかける。
「…あの。刀隠君。前から言っていましたが、やはりこの子が…」
「俺の『鞘』です。教授」
するとゼミ生達から「えええええ!!?」と驚きの声が上がった。対して、先に集まった女子生徒達もだが、後ろの瑤太もぽかんとしている。同じく近寄ってきた社長に「司さん」と呼びかけられた彼女は、「大丈夫です」と頷いた。視線を男子生徒と菅凪教授達に戻して呼びかける。
「私も霊術を扱える者です。お話は大体わかりました。詳細は後できちんと伺います。まずは説明会を始めようと思います」
「あ、ああ!そうだった!出鼻を挫いてしまってすまなかった!」
我に返ったように素直に謝罪する男子生徒に、彼女は「気にしなくていい」の意味を込めて首を横に振った。
件の男子生徒を始め、菅凪教授とゼミ生達の着席を確認し、彼女は全員に向き直った。
「あーあーマイクテスト。OKマイクテスト。『本日ハ晴天ニシテ波高シ』。聞こえますかー?」
「いやさっきのは何だお姉ちゃん」
幾人かが呼びかけに頷くのを確認した彼女は、隣の瑤太に小声で「マイクテストと言えばこれだと相場が決まっているんだよ」と返した。そして正面を向き、背筋を伸ばして胸を張る。
「はーいこんにちは!本日はお忙しい中お集り頂きましてありがとうございます!これより変質者及び妖魔除けアイテム『アイギス・シリーズ』の説明会を始めたいと思いまーす!」
「司さんってこんなキャラだっけ?」
なるべくテンションを高めにして声を張ったら、困惑したような社長の呟きが聞こえた。
「何分急な事でしたので、予め説明ができておらず申し訳ありませんでした。今回、『アイギス・シリーズ』ご希望の皆さんとは別に、まず『アイギス・シリーズ』を世に出す事にGOサインをくれた、弊社社長も来ております」
「孫江です」
席を示すと、最前列の社長は後ろを向いて女子生徒達に会釈した。つられたように、女子生徒達も会釈を返す。
「また『アイギス・シリーズ』の詳細を知りたいとの事で、菅凪先生とゼミの皆さんにもおいで頂いています。男子がここにいる事に困惑している方もおいでとは思いますが、アイテム研究の為だそうです」
菅凪教授らが座るスペースを示した手で、彼女は隣の瑤太を示した。
「なお、こちらにおります男子は、今回における私のアシスタント。幼稚園及び小・中・高と『似てない双子』と有名だった弟。至って人畜無害男子。瑤太と申します」
「双子!!?」
ほぼ全員の視線が、彼女と瑤太を行き来した。
「弟さんは、霊術士じゃないんだよね?」
「はい。ディオスクロイみたいなものです」
「…司さん。ディオ何とかって何?」
「お姉ちゃん。多分それじゃ一般の人はわからないって」
社長の問いかけと弟の言葉に、彼女は「しまった」と言いたげな表情になった。
「双子座のカストルとポルックスのようなものだと言えば、大体の方は馴染みがあると思います。かの双子は…諸説あるとは思いますが、片方が神通力持ちで、片方が普通の人間だったとの事なので」
社長を始め、ほぼ全員が「成程」といった顔になった。
「このメンバーで説明会を致します。なお、説明の途中でどうしても具合が悪くなる方もおいでかもしれません。その場合は、後ろをご覧下さい」
彼女が手で示した先。講堂の最後列の壁際。いつの間に佇んでいたのか。医師のような看護師のような、清潔感を覚える服装の2名が一礼した。
「医療用式神である、あちらの『パナケア・シリーズ』が皆さんを看護・あるいは保健室…ではなくて医務室にお連れします。ですので、遠慮なく仰って下さい」
「…お姉ちゃん、式神は人型にしたんだな」
「今回は特別仕様で人型にした」
こっそりと問いかける弟に、彼女は同じくこっそりと返した。何せ司家で機能する式神は全てが折り紙人形なので、当たり前と言えば当たり前のやり取りである。
なお女子生徒達は驚いた顔を見せたが「本当に霊術士なんだね」と納得顔で囁き合っていた。
「では、体制の説明も致しましたので、本題に入ろうと思います」
彼女がさっと手を振ると、教壇に置かれていたストラップが、それぞれ全女子生徒の元へ飛んで行った。おお、わあ、と驚きの声をよそに、彼女は続ける。
「私個人の話で恐縮ですが、大学という場所自体が初めての上に、学校自体がジュラ紀ぶりですので、何かと至らない所もあるかとは思いますが、よろしくお願いします」
「いやジュラ紀ぶりって何だお姉ちゃん。つかお姉ちゃんは俺と一緒に卒業してんだから、そんなに時間経ってないだろ」
「じゃあカンブリア紀ぶり」
「…カンブリア紀っていつだっけ?」
「古生代の最初。まだ恐竜もいない」
「もっと遡ってんじゃねーか!」
「嫌だな。私なりのジョークだよ」
「わかりにくいんだよ!」
打てば響くような姉弟のやり取りに、講堂中がどっと湧いた。
「さて、皆さんにお配りした『アイギス・シリーズ』と名付けたその品ですが、名前の通りです。貴方を守ります」
気を取り直したように彼女は口を開いた。
「端的に言いますと、害意を持って近付いた者がいた場合、危害を加えるに使おうとした体の部位を壊死させます」
………………………。
先程とはうって変わって、講堂は静まり返った。強烈な言葉に、「壊死…?」と女子生徒達がうすら寒そうにストラップを見つめる。弟に「お姉ちゃん。お姉ちゃん。端的すぎ。もうちょい詳しく」と耳打ちされ、彼女は「わかっている」の意味を込めて頷いた。
「ここから先は具体的な話も入りますので、気分が悪くなった方はすぐに仰って下さい」
彼女は慎重な口調で前置きした。
「例えば、通学にあたって電車等の公共交通機関をご利用の方が大半と思われます。そこでもし害意を持って皆さんに近付く者がいた場合、『アイギス・シリーズ』が害意を感知し、加害者にまず警告発作を起こします」
ゼミ生達も女子生徒達も「警告発作?」と首を傾げた。その疑問符を想定していたように、彼女は続ける。
「『警告発作』とは、『アイギス・シリーズ』に込めた霊術で加害者の心臓や肺を締め上げる事により、頭痛や息苦しさ、胸の痛みを与える事です。ここで加害をやめれば最悪でも『車内に急病人のお客様が』で済みます」
「えーとつまり、もし皆さんの周りでそういう症状が出る奴がいたら、そいつは加害者予備軍だって事です。助けなくていいですし、そもそも助ける価値無いですし、なんだったら駅員とか呼べばいいだけです」
彼女の説明に、瑤太が合いの手を入れた。
「与える苦痛を具体的に言いますと、嘔吐感を覚えるレベルの苦痛です。普通でしたらそこで加害をやめる、と言いたい所ですが、その手の不審者に『普通』は通用しません。もし苦痛を覚えても加害行為を継続しようとした場合は、加害に至る前に、例えば手を使った加害でしたら、その手が壊死します」
「いや…何もそこまでする事ないんじゃないですか…?」
ゼミ生のスペースに座る男子生徒が遠慮がちに訊いた。気分を害した様子も無く、彼女は返す。
「この手の犯罪は現代の日本では裁かれにくく、また裁かれたとしても再犯率が非常に高いです。法的に裁く事も再犯を止める事もできない以上、単純かつ決定的な手段として、身体を使い物にならなくする事が一番です」
「そもそも、いきなり身体を腐らせたりしないで『警告発作』っていう猶予を与えているだけ、姉は優しくなった方です…。…昔は問答無用で腐らせていたんで」
「昔は!?」
瑤太の補足に、社長以外の全員から声が上がった。彼女は何の事も無さそうに「はい」と首肯する。社長は社長で「あーそんな事もあったね」と遠い目になっていた。
瑤太の言葉の意味を説明するには、彼女の高校時代へと時を遡る必要がある。
「落ち着いて!皆落ち着いて校舎に戻って!」
体育教師の呼びかけに、生徒達はざわつきつつも指示に従う。生徒達を誘導する教師の傍らで、スマートフォンを手に救急車の手配をする同じ体育教師と、両目を抑えて悶絶する男達を見ながら、彼女は呟いた。
「うっわいきなり効果抜群か」
「あれ司さんがやった事だったの!?」
クラスメイトの素っ頓狂な声に、彼女は「そうだ」と頷いた。
「ていうか、霊術士って本当にいるんだ」
「都市伝説だと思ってた」
「まあ私は他の皆みたいに何か凄いビームとか撃てないがな」
クラスメイト達は「何か凄いビーム…?」と怪訝そうな顔をしたが、彼女は至って大真面目に話している。
このリアクションも無理は無い。ここは普通の公立高校なのだから。彼女が『自分が行けるレベルの中で最も偏差値が高く、かつ学費が安い高校を』と選んだ結果、現在の高校に落ち着いた。とりわけ『学費が安い』は重要である。故に彼女は彼女曰く「公立の貧乏校」に入学となった。
このような言い方をしてはいるが、彼女は学び舎を馬鹿にしている訳ではない。事実を述べているだけである。何せ『築100年以上の歴史を持つ伝統ある校舎』と言えば聞こえはいいが、その内実は近隣の住民はおろか生徒達からも『死霊牙城』と揶揄される程の、おんぼろ校舎なのだから。しかし制服が無く私服通学が可能。校訓は『自由・自律・自制』。校則は『他人に迷惑をかけない。社会のマナーとルールを守る』と至ってシンプル。その自由な空気に憧れ、難関ではありつつも志望校とする者が多い、変わってはいるが良き女子校である。
尤も、彼女の選択に例にもよって瓊子は文句を付けてきたが。何でも「うちの中で公立に通うなんて瑠子とあんただけ」「霊術が使えるのに霊術士専門の高校に通わないなんて本家の恥」との事だった。日頃より彼女を「まともな霊術も使えない」とこき下ろしているにも関わらずの発言だ。これがいわゆるダブルバインドである。
因みに、司一族はエリート揃いだ。例えば本家も分家も、高校は件の霊術士育成機関を備えた私立の難関校、大学は東大(時代によっては帝国大学)、もしくは東大と同レベルに通った卒業生ばかりである。璃子もOGである事は言うまでも無い。
時代もあるが、瓊子の意向により進学先を選択する自由すら無かった瑠子も、上記の高校を受験させられた。しかし成績が届かず、ワンランク下の公立高校に通う事になった。
「私の成績じゃ無理だって、最初からわかっていたけどね?」
当時を思い返した瑠子はこう言っていた。
なお、ランクが落ちるとは言っても、名を言えば「え?『あの』?」と返ってくるような、十分に優秀と言える高校だったが。しかし瓊子にとっては「公立如きに通うなんて、恥ずかしくて世間様に顔向けできない」との事らしい。
ここで全ての公立高校の在学生・卒業生及び関係者の皆さんに謝罪しなければいけない。本当にごめんなさい。瓊子は価値観も視野も恐ろしく偏狭な上に、一族こそが何よりの基準なのだ。
当たり前だが、ただ一方的に言われるだけの彼女ではなかった。
「進学なんて自由でしょ。自分が行きたい学校を選んで何が悪いのさ。私もお母さんも祖母さんの見栄の為に学校に行く訳じゃありません。そもそも私を『まともな霊術も使えない』とか言ってるくせして、霊術士育成クラスがある学校に行かせようとするとか、言ってる事めちゃくちゃだからね?てか、あんな阿呆みたいに学費が高い学校に行く気なんか無いよ。奨学金なんてお荷物を背負いたくもないし。自分が選んだ学校に自分の実力で合格した事を非難される筋合いなんてありません。第一、時代の関係もあるのはわかってるけど、親に言われて試験も無しに女学校に入学した『だけ』、しかもまともに卒業すらしていない祖母さんが、私やお母さんを恥だの何だのとどの口で言うのさ。悔しかったら今からでも勉強して、大お祖父様達みたいに東大にでも合格してみたら?このオール丙」
という感じだった。瑠子や瑤太が瓊子への反論に加わる余地が無い、苛烈極まりない反撃だった。丁度反抗期真っ只中でもあったので、彼女の舌鉾は殊更に鋭く容赦が無い。後で瑤太が言うには「マシンガン通り越してグレネードランチャーをガトリング砲にしたみたいだった」との事だ。攻撃力というか口撃力の凄まじさたるや、一を言ったら十どころか千も万も返ってくると言えよう。
因みに、瓊子の成績の情報源は、言うまでもなく翠子である。成績の付け方は、上から甲・乙・丙・丁だった時代なので、この物言いになった。時代によって差異があるとは思うが、甲・乙・丙・丁が現代の5段階評価や10段階評価に照らし合わせるとどんなレベルになるか、興味がある方は調べてみるといいだろう。
さて、誤解が無いように書いておくが、彼女は学歴至上主義という訳ではないし、祖母を馬鹿にしている訳でもない。単にひたすら、理に適わない事を言って何処までも人を貶める祖母の言動が許せなかっただけである。
このようにして、彼女は大手を振って志望校に通い始めた。そして最初の体育の時間。必ず通る道と言える体力測定の際。フェンスの植え込みに隠れてカメラを構えていた男達の眼球が壊死し、気付いた教員達が慌てて救急車を呼ぶという事態が発生したのである。
彼女としては目に異常をきたすような感染症、いわゆるバイオハザード的な異常事態が発生した訳ではないと、クラスメイト達を安心させる為に言ったのだが、クラスメイト達は『都市伝説だと思っていた霊術士』に興味津々だ。サイレンをBGM代わりに、慌ただしく行き交う救急車を見るともなしに見る彼女に、同級生達は問いかけた。
「その…ビームとか出せないって言ってたけど、一体何をしたの?どうやったの?」
「私はゲームとかで登場するマジックアイテム的な物を作る事だけはできるのさ。盗撮する奴の眼球が壊死するように術を仕込んだ霊具…お守りっぽい物を持ってスイッチオンしておいた。ざっくり言うと、要は見えないバリアみたいなもので校庭を覆っておいて、我々にカメラを向けてくるような輩がいたら、該当する奴のみに反応して、眼球を壊死させるセキュリティシステムだ」
「壊死…」
強烈な言葉に戦慄するような同級生達に、彼女は何の事も無さそうに「そうだ」と答えた。
「女子高は変な人ホイホイで、体育や水泳の授業だと盗撮が絶えないと聞いた事があったからな。変な人を近付けさせないようにする先生達の対処及び対応も大変らしい」
因みに、この情報は当時の彼女が既にプロトタイプとして作成していたサイバー式神『名探偵の手足』が、ネットの海を泳ぎ回って収集してきたものである。
「しかし先生陣がどう頑張ってくれようと限界がある。何より、こっそりカメラを向けられるなんて、それだけで不愉快だからな。旧約だったか新約だったか忘れたが、聖書の言葉を借りるなら『その目が罪を犯させるなら、その目を潰してしまえ』って奴さ。これで少なくとも今日群がっていた輩は、二度とカメラを使えなくなるだろうよ」
彼女は「まさか初日でここまでになるとは思わんかったが」と校庭を見下ろしながら呟いた。
「やりすぎだと思われるかもしれんが、この手の輩は警察に訴えた所で罪になりにくいし、また同じ事をする率も高い。だから単純かつ決定的な手段として、カメラを扱うに必要な目を使い物にならなくするのが一番なのさ。まあ個人的に出した結論でしかないが」
「でもそれわかるかも。電車やバスで痴漢とかカメラ向けられるとか、しょっちゅうだったもん。制服着てる時とか特に」
1人の生徒を皮切りに「うちも制服切られた子とか汚された子とかいた」「制服着てなくても痴漢される時はされるけどね」と次々に上がる声に、彼女は「うへえ」と顔を顰めた。
「マジか。私は小中は徒歩で高校は自転車だからわからんのだが、変なのが多すぎだろ。ただ通学してるだけだってのに」
尤も、徒歩だろうと自転車だろうと『変なの』に出くわす事はあるのだが、彼女は幸いかな――幸いではなく当たり前であるべきと彼女は思っているのだが――該当する事例に遭遇した事は、これまで生きてきた中で、一度たりとも無い。ある意味では、宝くじに当たるよりも凄い事だと彼女は思っている。
話を聞いていた生徒達の中で、1人が意を決したように「ねえ司さん」と進み出た。
「そういう変態撃退のアイテム、作れない?その…お金はあまり無いけど、払うからさ」
「いいとも」
「いいの!?」
彼女の二つ返事に、言い出した1人だけではなく全員がざわめいた。
「いや何。元から考えてはいたのさ。法で裁く事も行動を封じる事もできないなら、向こうが二度とそういう事ができないようにする、お守り的な物を作って装備なり携帯なりした方がいいってね」
彼女は考える素振りを見せた。
「ここは何かを一から作るより、元からある物に力を込める方が得策だな。何かお気に入りの物とか…『外出する時に絶対に忘れない物』を出してくれれば、それに霊術を仕込む。機能としては『向こうが何かをしようとしたのを感知して、何かをしようとした身体の部位を壊死させる』だ。つまり触られたりする前に、向こうの手だとかを使い物にならなくする。因みに『車内に急病人のお客様が』程度で留める。呪殺まではしない。何でかわかる?」
「…殺人になるから?」
「皆が罪悪感を抱かずに済むようにだよ」
彼女は、ふーうと溜め息をついた。
「私はその手の輩を『知性を持った同じ人間』として認識していない。殺処分で構わないと思ってる。例え殺した所で、虫を潰した程度の感情しか持たないね。でも皆はそこまで割り切れないでしょ。手やら目やらが使い物にならなくなるだけなら、そいつは犯罪者予備軍だって事がわかるだけだし、良心の呵責も生じない。要するに、皆の精神衛生を考えての手加減さ。手加減とか優しすぎると思うがね」
「でも逆に、司さんが罪に問われたりしない?傷害罪とか」
「無いね」
クラスメイトの1人の案じるような言葉に、彼女はきっぱりと断言した。
「日本で呪殺…『呪いで誰かを傷付けました』を裁く事はできないんだよ。それを見越した上でのアイテム作りさ。実際に判例があるから、興味があったら調べてみてちょ。仮に『これは霊術による現象だ』って事で霊術士が捜査に入った所で、『不審者除けの霊術』である事はすぐに解析できる。つまり私はあくまで『自衛』をしていただけで、『自衛』の為にアイテムを作っただけだから、罪に問われる事じゃない。だからそこも安心していい」
顔を見合わせ「そうなんだね」と呟くクラスメイト達を横目に、彼女は「ああそうだ」と手を打った。
「さっきお金がどーたらとか言ってたけど、お金は要らないよ」
「えっ!?」
意外そうなクラスメイト達に、彼女は至極当然のような表情で続ける。
「同じ学生からお金を取るとか鬼みたいな事はしないよ。バイトのお給料とか使える金額とか、どうしても限界があるんだからさ。第一、これって営利目的じゃないし。ボランティアみたいなものだよ。ボランティア」
「でも…」
それでは悪いと思っているらしいクラスメイトに、彼女は考える素振りを見せてから、言った。
「どーしても気が済まないとかだったら、何かお勧めのおいしいお菓子とか買ってくれればいいよ。勿論だけど、そっちの懐が痛まない金額でね。因みに、お守りの効果を確認できた後とかでOK。後払い制ね」
彼女はちらりと時計を見た。
「そろそろ次の授業だから今すぐ仕込むのはできないけど、興味がある人は放課後に残ってちょー。希望者のみのオーダーメイド的な物にするから」
外の騒動をどうにか治めたらしい教師が戻ってきた事で、彼女の話は終いになった。放課後にはクラスメイト全員が残ったのは言うまでもない。
実を言うと、これこそが後に『アイギス・シリーズ』と呼ぶ事になる霊具の、本当の始まりだったのだ。
時間を現在に戻そう。
いつか瑤太が姉を評して言った『えげつなさ』の正体は、おわかり頂けたと思う。
「でも、間違って手がぶつかったりとかで誤作動とかしないですか?」
別の男子生徒が訊いた。彼女は「ごもっともな懸念です」と頷く。
「そのような事故が発生しない仕様にしております。つまり対象を『標的』と定め『意識』を向けない限りは、『アイギス・シリーズ』は発動しないんです。因みに、これは公共交通機関内の加害に限らず、わざとぶつかってきたりだとか、付き纏ってきたりだとかにも有効です。同じように警告発作が起こり、それを無視した場合は、ぶつけようとした肩だとかが壊死しますし、付き纏おうとした足が壊死します。要するに、夜道でも皆さんが安心して歩ける仕様にしております」
女子生徒達がホーウと頷いた。対して男子生徒達は「わざとぶつかられるとかあんの?」と怪訝そうだったが。
「えっと、質問いいですか?」
「どうぞ」
控えめに手を挙げた女子生徒を彼女は促す。女子生徒は意を決したように話し始めた。
「わざと鞄を押し付けてくるとか、傘でつついてくるとか、直接触ったりしない場合もあります。それは防ぐ事はできますか?」
「質問自体が辛いかもしれませんね。訊いて下さりありがとうございます。回答の前に、まずご気分は大丈夫ですか?」
彼女が優しくかつ慎重な口調で訊くと、女子生徒は「大丈夫です」と答えた。
「そういったケースも想定しておりますので、防げます。その場合は、鞄や傘を持つ手を壊死させます。また盗撮の場合はカメラを仕込んだ場所、例えば靴だったら足を壊死させますし、スマートフォン辺りを使おうとした場合は、目が壊死します。つまり、皆さんに加害者を絶対に近付けさせませんし、加害をさせません」
「だから『アイギス』…。『絶対防御の無敵の盾』か…」
「はい。持ち主である女神アテナが『男性を寄せ付けない』女神というのもありますが」
菅凪教授の呟きが聞こえていたらしく、彼女は答えた。
「あの、それって傷害事件とかにならないですか?」
「ああ。『アイギス・シリーズ』で身体の異常を発生させる事そのものが罪になるかならないか?ですね。なりませんよ」
これまた別の女子生徒に、彼女は答えた。
「そもそも近現代の日本の法律において、呪殺を裁く事はできません。実際に判例がありますので、そこは大学のデータベースで調べた方が早いと思います。第一、『アイギス・シリーズ』は呪殺までは行ないませんからね。何より、仮に傷害事件と位置付けられたとしても、それは身体の異常が発生した側が犯罪行為に走ろうとした何よりの証左となりますから、どちらにせよ向こうは訴える事ができません」
彼女は改めて全員を見渡した。
「因みに、これはおまけみたいな機能ですが、妖魔除け機能も搭載しております。もし皆さんに近付こうとした妖魔がいた場合は完全に滅しますので、そもそも皆さんが妖魔に気付いたり追いかけられたりだとか、怖い思いをする事はありません」
「いやおまけどころの機能じゃなくありません?」
ゼミ生の1人の言葉に続き、他のゼミ生達も「凄くね?」「おまけって何だっけ?」「もう兵器じゃん」とざわつき始める。しかしゼミ生達の様子は何処吹く風と、彼女は女子生徒達に語りかける。
「なので皆さん。『アイギス・シリーズ』は『外出の際には絶対に忘れない物』。例えば、ご自宅の鍵やスマートフォン等に取り付けて持ち歩いて下さい。あと、大事な事を言っておりませんでした。勿論ですが、『アイギス・シリーズ』にお代は頂きません。差し上げます」
今度は女子生徒達がざわつき始めた。この場が設けられたきっかけ。彼女に最初に『アイギス・シリーズ』を渡された女子生徒が、困惑気味に手を挙げた。
「あ、あの。本当にただでいいんですか?ここまで凄い物を作ってもらったのに、何のお礼もしないとか、何だか申し訳ないって言うか…」
「世の女性達にあくまでも無償で提供するというのが、弊社の社長の方針ですので」
なお、これは社内の話。晴れて正社員となった彼女の為に、『アイギス・シリーズ』を始めとする霊具作成等、霊術での活躍に対する特別手当を付ける話が上層部で進んでいるのだが、この場では口にする必要が無い事である。とりあえず、彼女がいわゆる『やりがい搾取』に遭っていない事は明記しておく。
「なお『アイギス・シリーズ』は商品として展開はせず、あくまでも希望者のみのオーダーメイド制にするのも社長の方針です。何故なら『アイギス・シリーズ』は、それぞれ所有者の生体反応とリンクして機能する仕様ですので。つまり、お側に置いて下さる限り、一生守ります」
おお、と声が上がった。
「因みに、もし万が一落としてしまって、拾った誰かが転売などしようものなら、転売者は10年間インターネットが使えなくなる転売防止機能も搭載しております」
「10年!?」
「10年って年数を限っているだけ、姉は優しいです…。基本『転売死すべし慈悲は無い』なので…」
揃って素っ頓狂な声を上げる全員に、瑤太はフォローを入れた。
何せ、欲しかったあの限定品やらこのチケットやらが買い占められ転売の市場に出されているのを見て、血の涙を流しながら通称『通報レイドバトル』に参戦していた姉である。俗にいう『転売ヤー』に対しては恨み骨髄。これでも容赦している方なのだ。
彼女はふーうと大きく息をつき、神妙な口調で言った。
「私とて、世に言う『転売ヤー』には、転売に手を染めるに至った、どうしようもない経緯があったのかもしれないと思ってはおります。本当にどうしてもお金に困って、とか。そんな誰かを哀れと思いながら、とどめを刺してあげているだけなんですよ」
「…対妖魔の話だったら、霊術士の鑑ね」
菅凪教授は呟いた。ゼミ生が座るスペースから「戦闘民族かよ」「少年漫画のキャラみたいだ」という声も聞こえる。耳に入っていたらしく、彼女は「恐れ入ります」と軽く頭を下げて、顔を正面に戻した。
「万が一、紛失してしまった場合の話に戻ります。その場合は弊社にお問い合わせを頂ければ、女性スタッフから私に連絡がいきます。再作成も無償で承りますし、もし『もっとこういう機能が欲しい』といったご要望があれば、アップデートも行ないます」
「アフターケアもただでいいんですか?」
彼女は女子生徒の一人に「無償です」と首肯した。
「世の女性達を始め、『弱い立場の人達の味方である』というのが弊社の方針です。ですので皆さん。雇用対象はあくまで女性に限っておりますが、就職活動の際には弊社も視野に入れて下さると幸いです」
彼女が社長を手で示すと、社長は女子生徒達の方を向いて、にっこりと笑った。
「他にご質問が無いようでしたら、以上で『アイギス・シリーズ』の説明会を終了します。もし良かったらですが、お困りの方がいらしたら、口コミで『アイギス・シリーズ』の事を教えてあげて下さい。後は各自で自由に解散で大丈夫です。本日はお時間頂きまして、ありがとうございました」
彼女は全員に向かって一礼してみせた。
「…刀隠美斗先輩と、各務桃李先輩。2人共3年生」
「『各務』ですか」
「知ってるの?司さん」
眉を上げる彼女に、社長は問いかけた。彼女は「曾祖母から聞いただけですが」と前置きする。
「旧くは『火の神様』だから『火神』と。菅凪先生の『巫』…つまり『巫女』と同系統の名字です。とりわけ『各務』は弥籟刀を守る一族『刀隠』の分家の一つであると。ところで『トウリ』とは『桃李成蹊』の『桃李』ですか?いいですね。おっと。話が逸れました」
自力で軌道修正する姉に、瑤太は「あのさ。お姉ちゃん」と呼びかけた。
「弥籟刀とか刀隠とか、色々ついていけない話が多すぎるよ。俺は少しなら知ってるけど、社長は全然知らないと思う。悪いけど、説明してくれる?」
「そうだね。そこから始めた方が良さそうだね」
彼女は「ごめんごめん」と弟に謝った。
場所は変わって、菅凪教授の研究室に彼女達は集まっていた。彼女が「後できちんと話を聞く」と言った事を律儀に守ったのもある。なお霊術士の卵達の指導役として無関係ではないからと菅凪教授も、社員に只事ではない事態が起こったらしいからと孫江社長も同席すると言い出したので、研究室で話をする事になった。瑤太は彼女の弟なので、言わずもがなである。
「まずそもそも、我々生きた人間の世界と、妖魔が住む幽世の境が曖昧なのが、全ての始まりなんです」
社長にも向けた説明なので、彼女は敬語になっていた。
「我々の世界と幽世を『区切る』為に存在するのが『弥籟刀』です。『斬る』のではなく『区切る』為に存在する神刀霊刀です」
「ですが、弥籟刀は、単独では機能しません」
菅凪教授が口を開いた。
「弥籟刀は『境御前』と呼ばれる付喪神が代々守るもの。しかし、弥籟刀がこの世と幽世を区切る力を十全に発揮する為には、『鞘』と呼ばれる人間の伴侶が必要です」
「代々という事はつまり、境御前がいない、あるいは境御前がいても鞘がいない時代もあったという事ですよね?」
社長の問いかけに菅凪教授は「その通りです」と頷いた。彼女も首肯し「実際、」と難しい顔で言った。
「鞘は誰なのか判別しようが無いと聞いています。家柄や血筋ではないし、能力者や一般人も関係ありません。境御前が鞘と会えるのは、天文学的な確率と言われています」
「そのように不安定な歴史の中、幽世からこの世に出てくる妖魔を幽世へ送り返す、たちが悪い妖魔の場合は滅する役割を持つのが、私達霊術士です」
菅凪教授は美斗に視線を向けた。
「そして、霊術士の筆頭にして、刀隠家の次期当主。境御前と呼ばれる事になるのが、こちらの刀隠美斗君です」
「それで、その鞘…力を発揮する為のパートナーが、うちの社員って事ですか…?」
「はい。一目でわかりました」
きっぱりと言い切る美斗に、社長は深刻な表情で呟く。
「…今更だけど。私、凄い子を自分の所の社員にしたのね」
「私は凄くありませんよ。社長。皆みたいに…普通の霊術士達みたいにこう、妖魔に対して直接術は使えません。『アイギス・シリーズ』みたいに霊術を仕込んだ物を作成するか、もしくは元からある物に霊術を仕込むか、どちらかしかできませんから」
「いや。あそこまでの物を作れるのは、十分凄い事だと思うよ?」
否定する彼女だが、桃李は困惑気味に肯定する。
「君は『それしかできない』のではなく、『器物』に対する霊術に特化しているのだと思う。本性が付喪神である俺にとって、運命だとしか思えない」
美斗はいきなり席を立った。彼女が座る席まで回り込むと、左膝を床について彼女の手を取り、真っ直ぐに彼女を見据えた。
「どうか俺の花嫁になってくれ!」
「無理です」
「即答!?」
彼女と瑤太と美斗以外の声が揃った。瑤太は全てを悟ったようでありつつも「あーあ」と呻きそうな表情を浮かべている。美斗は彼女の手を取ったまま「無理…?」と音だか声だかを出し、ぐらりと卒倒しそうな顔になった。どうやら、多大なショックを受けたらしい。
「もしかして…好きな男がいるのか…?」
「いません」
「ならどうして…」
「結婚の失敗例を身近で見ていますので。2件。いや3件ですか」
彼女は何の感情も交えない顔と声で答えた。
「社長も…もしかしたら菅凪先生もある程度はごぞんじでしょうから言いますけど。『霊具の作者の身元がわかってから』と言っていた以上、既にうちの事情は調べておいでだと思います。我が家の事情が影響しているのは大きいです。何より、刀隠は由緒正しき御大家です。その次期当主にして境御前でしたら、許婚の1人や2人や3人や4人や5人いるのでは?」
「いやそれ流石に多すぎだろお姉ちゃん!ってかいないだろそんなに!」
「これでも真面目に言ってるんだけど」
美斗は音がしそうな勢いで首を横に振る。そんなに首を振って、首の筋を傷めはしないかなあと、彼女はマイペースに心配した。
「いない!許婚は1人もいない!信じてくれ!」
「ええ?本当ですかあ?」
「本当だよ。俺が保証する」
あからさまな疑いの目を向ける彼女に答えたのは、桃李だった。桃李は溜め息をついて、幼馴染を見やる。
「確かに、分家から婚約者をって話は、無い訳じゃ無かったんだ。でも、美斗はこう見えて、ロマンチストな所があるんだよ」
美斗は白皙の頬を僅かに赤らめ、視線を泳がせた。
「その…確かに数は少ないが、鞘を見付ける事ができた先祖はいた。鞘を見付けた先祖達は言っていた。鞘がいれば、一目でわかると。ただひたすら心惹かれ、愛を一生捧げる事ができる唯一無二の相手だと。だから俺も、いつの日か先祖達が言うような伴侶に、鞘に巡り会えるかもしれないと思っていて…」
揺らいでいた眼差しが、彼女に据えられる。
「もし鞘に巡り会えたら、その時に婚約者がいた場合、婚約者の事も鞘の事も悲しませてしまう事になる。だから婚約者を作らないでいたんだ」
「そうだったんですね。ふうん…」
相変わらず何の感情も交えない顔と声で、彼女は美斗の手を静かに離すと、ふと立ち上がった。そのまま研究室のドアへと近付き、勢いよく開け放つ。
どうやら、ドアに耳を付けるという恐ろしく原始的な方法を取っていたらしい。どどどっと盛大な音と共に、ゼミ生全員が部屋に雪崩れ込んできた。彼女に無表情に見下ろされ、ゼミ生達は気まずそうに目を逸らす。
菅凪教授はと言うと、「貴方達ねえ」と呆れ顔で髪を掻き上げた。
「確かに気になるのはわかるし、この部屋に盗聴防止の術式を組んでいたけれど、だからって、こんな子供みたいな事する?」
「これじゃまともに話もできないな…」
「そうですね」
同じく呆れ顔の桃李に、彼女は同調した。