「するわけないでしょう。なんなの、あの居丈高な人間は」
蒼が投げやりに言うと、ずっと黙っていた和が憤然と返してきた。ご立腹のようだ。
「蒼と衛が大分痛めつけたみたいだけどな……」
流がやや疲れたように言う。……痛めつけたのは衛だけだと蒼、心の中で反論しておく。
「白ちゃん、大丈夫? 気分悪くなってない?」
尊が、ずっと緊張した顔で隣にいる白を気遣う。白はしっかりと肯いた。
「ねえ、蒼と――衛? は、どうして天科理事と面識持ったの? 普通、理事と生徒に接点なんてないよね?」
雅に尋ねられて、蒼と衛は顔を見合わせた。確かに、そこは説明していなかった。
「この後予定ある人―」
誰も答えなかった。蒼は決めた。
「じゃあ、時間ある奴は『From Moon』って店に来て。そこなら時間も場所もある」
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木造のカフェは、城葉研究都市の隅にあった。
住宅街からは離れて城葉都市のはずれ、隣の市との境を作っている森を背負っていた。
「ここ? 普通のお店に、いいの?」
リンが不安そうに、提案者の蒼を見てくる。
「いーよ。俺と白の、今の保護者がやってる店だし」
『……え?』
白と蒼の関係を知らないクラスメイトから、呆けたような反応があった。
「あ、蒼、白。おいでおいでー」