それを聞いた蒼は意外に思った。
天科がPクラス担当理事であっても、全権を掌握しているとは、一般教員も知らないはずだ――と、本人が言っていた。
まあ、本人談、なんてあてにならないし、ましてや喧嘩相手の発言だし。実のところみんな知っているのかもしれない。
「そうだよ。二年前、天科がPクラスの全権を掌握した。そんで俺らまでの二年間はPクラスを潰した」
「……蒼」
高めの声に呼ばれた。調だ。雪の袖を引いて連れて来たらしく、こっくりこっくり船をこいでいる雪が後ろにいる。衛が停めていた足を返して、調の前に立った。
「調」
にっこり。衛が笑うと、調は顔を引きつらせた。衛の性格を忘れていないようだ。衛はむぎゅうと調の両頬を摘まんで引っ張った。
「し~ら~べ~。お前なあ! ここ来るんだったら先に言って置けよ! まさかもうやってねえよな? やってるつったら校庭の見晴らしのいい樹に吊るすからな」
笑顔で脅されて、調は半分泣きかけている。衛が手を放すと、調は紅くなった頬をさすりながら答えた。
「うぅ……お久しぶりです」
「おう。久しぶりだな」
衛、居丈高。だが蒼も別に止めようとは思わない。むしろ衛に同意する。
「その……雪の居場所を突き止めるために、少々無茶は、しました……」
がしい。今度は衛の掌が調の頭を摑んだ。
「もうやるな」
「……はい」
そのまま調の頭を摑んで持ち上げそうな怖いカオの衛に、調はしおらしく肯いた。
……あまり信用の出来ない肯きであることは蒼も承知で聞いていた。