「なんだ? 闇夜に紛れて襲えばいいのか?」

「それはただの犯罪だからやめておいて、翠」

真っ当なことを言ったのは流だった。ぞろぞろとクラスメイトが出てくる。

「蒼、そういう言い方で翠を衛より強くしたわけ?」

流が眉を寄せて蒼と翠を見比べると、衛が反応した。

「おお、さすが流。蒼が翠に『衛より強くなるなよ』って言うとさ、この妹はヘンな解釈して、言葉の裏にある意味は、俺より強くなれと蒼は言ってる、って思うんだよな」

「……ごめん、衛ちゃん。問題有りな兄妹で」

紫が今度は頭を抱えている。紫もそろそろ観念してきたのだろうか。流が傍にいても騒がない。それともさっきの自己紹介が好印象だったのだろうか。

蒼、少し複雑な気分になる。これが花嫁を持ったじいちゃんの心境か……。と、斜めにずれたことを思った。

「っつーと、天科理事襲撃事件はナシなのか?」

「なしに決まってんだろ」

「もう衛が襲撃してるから翠はやんなくていい」

翠を止めた衛が、痛いところを突かれたように顔を歪めた。蒼は衛を睥睨する。既にお前が一発喰らわせてんだろうが。

「ねえ、さっきから言ってる天科理事って、天科全のこと?」

雅だった。後方から声をかけられて、蒼は少し足を停めた。

「そうだよ。雅は、何? 面識あんの?」

紫や翠が近い存在だった蒼は、女子を名前で呼ぶことに抵抗はなかった。雅自身、名前でいいと言っていた。

「いや、天科理事とはないけど、少し気になってて。Pクラスの全権を持ってるとか聞いたから。噂程度なんだけど、どうなのかなーって」