上背のある紫と違って、翠は人波に埋もれてしまっている。流が連れて来てくれた。
……と言うか、流の前には自然と道が開かれている。こちらは有名さが勝り過ぎての反応のようだ。少し淋しそうな顔をする流。うーん、なんとも。
「なー蒼。ほんとに同じクラスでいいのか? あたしら」
流に礼を言ってから、翠は兄を見上げてきた。
「いーんじゃねーの? どっかの理事さんの権限だし」
蒼はちらりと参列者席に目を遣る。どっかの理事さんがそこにやってきたところだった。
蒼と目が合った――途端、ギリッと睨まれた。
(ああ? 何いきなり喧嘩腰だよオッサン)
(喧嘩売って来たのはお前たちだろう)
(あんたが企んでなきゃ売る喧嘩の発生もしてねーんだよ)
(今度やったら傷害で突き出すからなガキ共)
……取りあえず目線のやり取りだけで、お互い言いたいことがありまくって罵倒しているのは通じていた。
ぽろぽろと生徒が自分のクラス席に着き始める中、好奇の視線を感じる。
二年ぶりに復活したPクラス。その中に中等部で生徒会長だった蒼や、武部の代表だった衛がいる。
紫と流は芸能活動のおかげで顔も名前も知られているし、翠は空手の全国大会常連選手だった。
……不良クラスの評判にはかけ離れた面子が揃っている。
Pクラスの席には蒼の知らない顔も何人かいた。
腰まで流れる黒髪の、日本人らしさを詰めたような顔立ちに、人形のような光の薄い眼差しをする少女。
髪を左側に寄せたポニーテールにして、意志の強そうに口元に力のこもる少女。
目元が優しくて、中性的な柔らかい印象を与える少年。
調と雪は何年も逢っていなかったが、面差しに覚えがあってすぐにわかった。
白と同じくらいの身長で、口元が常に笑っているように見えるやや大きめの制服の少年が、地垣調。
歩いて来る時から船をこいでいるのが森崎雪だ。何故か頬に十字傷がある。……研究機関で研究生になったと調から聞いていたが、武道もやっていたのだろうか。それとも帰国早々に辻斬りか?
蒼はまた天科に目をやった。
今度は蒼の方は――Pクラスは見ていなかった。
他の教師たちの方が興味ありげに蒼たちを見てくる。それはどうでもよかった。