蒼は、こそっと尊に囁いた。位置的に白にも聞かれただろうけど、それはまあいい。

「わかった。確かにだよね。――帝くん」

「ん?」

ぺしっと、尊が背伸びして帝の頭を叩いた。意味がわからずぽかんとする帝。

「え? 何? なんで俺叩かれんの? まだなんもしてないよ?」

「蒼くんと今約束した。帝くんが衛くんの評判に傷つけるようなことしたら一ペシするから」

「……いちぺし? 叩かれんの?」

「衛くんはここの運動部取り仕切ってた人なんだよ。威厳も必要なの。帝くんが変な真似して衛くんに迷惑かけたらどうするの。だから、わたしが監督する」

「……そうですか」

妹には負けてばかりの兄だった。既視感を覚える蒼。ついでに尊の背後にいる自分が激しく帝を睨んでいるのも効いたようだ。

――急に、体育館がざわついた。蒼には見なくてもその理由がわかる。妹だ。

「え? 神林紫?」

「ほんもの!?」

「背ぇ高! 顔ちっさいしキレ―!」

「そういえば初等部はここって聞いたことある!」

「高等部は桜学に来たんだ?」

「って、え? 流じゃない? 隣の!」

「作樹流!?」

「カッコいい~!」

「ちょ、あたしなんか涙出て来た」

――っと、流も一緒か。先日紫と面識が出来たばかりの白は、周りのざわめきに驚いているようだ。