【耳は聞こえてます。少し喋れないだけなので、言いたいことがあったらなんでもどうぞ】
「………」
反対に言われてしまった。白は真っ直ぐに蒼を見てくる。……蒼の忍耐負けだった。
「……恋」
「なんだ?」
「どういう経緯でましろがここにいるわけ? 俺まで引き取るって、お前もバカじゃねえよな?」
蒼の両親は亡い。
その祖父母――恋の両親も既に病気で亡くなっていると聞いている。
聖堂から引き取ると言うことは、蒼を養う立場を、恋は一手に引き受けてしまったわけだ。
「白は、私の姉の旦那の、妹さんの娘だ。事故で両親を亡くされて、お祖母さんと暮らしてたんだけど、お祖母さんも他界された。行く当てがなくなったのを知って、私と一緒に暮らしている。カネの心配はいらない。店以外にも稼ぎがあるから」
……姉の旦那の妹? それって系図でしか繋がらねえじゃねえか。
「……お前、守備範囲広いな」
「女性を傷つけない男を目指しているんでな」
「お前が女性だろうが」
はあ、とため息をついた。
実のところ、恋の――叔母の存在は蒼が初等部の頃に知れていた。
兄の遺児である蒼のことを探し出した恋と友人の剣は、度々聖堂に顔を出すようになって、今では弟妹たちも懐いている。
長い間、蒼の叔母として接していたから、蒼が聖堂を出て恋のもとへ来ることになっても、紫や翠がヒステリーを起こすほど拒絶はしなかった。
実際、恋の現在の居住と聖堂は同じ市内だし、逢おうと思えばすぐに逢える距離だったことも幸いした。
のだが。
「……わかった。恋に世話になる身だ。文句は言わない」