「は? この子も一緒に暮らしてる?」
恋のマンションにやってきた蒼は、間の抜けた声を出した。卒業式の翌日だ。
恋――細身と化粧っ気のなさ、ゆるく束ねた髪の所為で中性的に見える、正真正銘の蒼の叔母、猫柳恋は楽しそうに肯いた。
「そ。随分前からあたしんとこいるんだけど、言ってなかった?」
いきなりな話にも悪びれない恋に、蒼は面倒くさいものしか感じなかった。同居している人がいるなら早めに言って置け。
「聞いてねえよ。……はあ、俺、聖堂に戻るわ。なんか問題視されてもめんどくせえし」
ため息をついた蒼の前に、紹介された小柄な少女――猫柳白がまわりこんで来た。そして頭を下げる。蒼は胡乱な顔で白を見返す。
「なに。ましろだっけ? 言いたいことあんならはっきり言えよ」
白はさっと上着のポケットから手帳を取り出した。
【ごめんなさい】
何故か手帳に書かれた言葉で謝られた。
「……は?」
蒼が、何故手帳を使うのかとか、謝罪するのかとか、意味がわからないでいると次のページを繰った。
【私、声がないんです】
「―――」
声?
咄嗟のことに蒼が言葉に詰まると、白は急いでまた次のページに書き込んだ。