剣はぶつくさと髪を掻いた。
「ケン、ごめんごめん。白も、お待たせ」
剣を「ケン」と呼んでからカーテンを押して出て来たのは、長めの黒髪を左に寄せて蒼い紐で括った――美青年だった。「レン」と剣は少し怒るような声で呼んだ。
「ごめんな、白」
「白ごめんねー。叔母さんこんなんで」
「ケン」
「あははー」
今度はレンが剣を睨んだ。白は一見、美青年のような女性を見て苦笑した。猫柳恋(れん)。本当にこの二人は仲がいい。
うらやましい。
「あ、白。前から言ってたけど、明日あたり来るけど、いい?」
恋に言われて、白はこっくり肯いた。恋はほっとしたような顔になって時計を見遣った。
「ケン、閉めたらうち来いよ。白、ケンも夕飯一緒でいい?」
白は大きく肯いた。恋は白の頭を優しく撫でる。
恋にとって白は、姉の結婚相手の、その妹夫婦の娘という立場だ。
体面上は『叔母』と『姪』と名乗っているが、厳密に言うと違った。
恋と白に血縁関係はなかったが、理由あって恋が育てていたのだ。
そして近々、恋の血縁上の甥がやってくることになっていた。
「ネタ出たー?」
「おう。今、走り書きだけどしまくってきたから」
「それはよかった。レン、白と先帰っていいよ? 掃除だけ終わったら行かせてもらうから」
剣が提案すると、白は焦ったように首を横に振った。
「ちゃんと最後まで一緒に仕事しないとダメだってさ。白、待っててもらえる?」
苦笑する恋に、白は勢いよく肯いた。恋は優しい眼差しをする。
「ケン、さっさと片付けて帰ろう」
「おーう」
剣から箒と塵取りをパスされて、恋は閉め作業に入った。
白も雑巾を借りて、机や椅子の乾拭きを手伝う。