チリンと、猫の鈴のような音が鳴った。
扉の内側につけられたベルは、いつも柔らかい音で迎え入れてくれる。
もう夜闇の訪なった外への灯りはブラインドで遮断された明るい店内。
鈴の音を聞いた、箒を手にしていた青年が振り返った。
「あ。白、いらっしゃーい」
お店の中から柔らかい笑顔で迎えてくれた霧原剣(きりはら つるぎ)に、白はぺこりと頭を下げた。
「もう閉店時間だけど……レン?」
こくり。また肯いた。
「ちょっと待ってね」
と、剣はカーテンで仕切られた奥への通路に声をかけた。
「レンー、白来てるよー」
閉店の七時も間際なので、店内に客の姿はない。
剣も、もう客はないと早めに仕舞い作業をしていたのだろう。
木造の店内。カウンター席と、五つのテーブル席。ディスプレイには観葉樹や小さな鉢植えの花が並んでいる。名前を《From Moon》というカフェ。
白は剣に示されて、カウンター席にちょこんと座る。
「ご飯作った?」
こくり。肯く。
「レンが家事全然でごめんね?」
ぶんぶん、首を横に振った。
「二十六になって炊飯器の使い方も知らないってねー。レンのご両親は普通の家庭だったんだけどね」
白は微苦笑した。フロムムーンでの調理は総て剣が担当している。『レン』は接客担当だった。
「こんなんじゃゼンが嫁にもらってくれんのもいつになるか……」