「……帝が暴れないって?」
「うん。今はもう、帝くんが護りたいのってわたしやお姉ちゃんだけじゃないから」
「………衛くんがいるからってこと?」
「大部分はね。衛くんに、帝くんは憧れてる。だから、もう喧嘩する理由がないの」
「……尊が誘拐されたらあいつ大暴れして助け出すと思うわよ?」
「なんでそんな物騒な話になるの。でも、そうはならないよ」
「尊が誘拐されることはないって?」
「それもあるけど、もしわたしに何かあったら、帝くんには頼る人がいるから」
「………」
「頼る人がいて、その人たちは簡単に喧嘩を買うような人たちじゃない。冷静さを持って対処する。だから、帝くんが喧嘩する理由も、暴れる理由も、もうないの」
「……ふーん? 帝のことなら尊のが詳しいのは当然だしねえ」
「うん。だから、お姉ちゃんは心配しないで、自分の進路を選んでよ」
「………」
弥は黙って箸を運んでいる。
尊は自分用の紅茶をすすった。肩の力が抜ける。はー、うまし。
紅茶友達の紫にもらう茶葉はいつも美味しい。今日の紅茶は季節のフレーバー桜紅茶。
帝は甘党だけどお茶に興味はないし、蒼は食べ物に頓着しないし、翠は個性的な舌をしているので、紅茶好きは尊と紫の共通点だった。
知り合ってからその点で意気投合して、紫がよくいくお茶のお店に連れて行ってもらったり、尊がよく行くカフェに一緒に行ったりしている。
カフェのお兄さんはコーヒーだけでなく、紅茶の淹れ方も絶品だった。
「……帝、今のが楽しそうよね」
「うん? そうだねえ、衛くんはいい迷惑だろうけど」
衛の追っかけを始めてから、帝は感情が豊かになったように見える。