「おばあ様め~~~! 結婚はもう諦めてるけど、なんで倍も生きてるようなおっさんが相手なんだよちくしょうめー!」

和はなかなかに口が悪い。

普段は教えこまれた『淑女』を装っているが、素は普通の少女だった。

ぼすっ。クマに頭突きした。ぼすぼすぼすっっ

ぼす。

「……ふー」

何度か繰り返して一心地ついた和は、今度はクマを睨みつけた。

和の許嫁は、進学先の学校にいる。十五歳の和よりちょうど倍の年を生きている人だ。

「………」

思い出したらまた額に筋が立った。

「大体このご時世に、お前は嫁いで子供生むだけでいいなんて、小学生のガキに言うか!」

実際、和はそう言われて育った。

両親は記憶もない頃に他界していた。

父方の祖母が母親代わりに育ったと言っても、門弟やお手伝いさんが多くいる家なので、和の親はその人たちだった。

そのみんなのことは、和は大すきだった。

祖母は和に茶道や華道の稽古をつけてくれるくらいで、食事は別だし学校の成績にも文句は言われないし、血縁という感覚のない人だった。

茶道の家元と弟子。それ以上はなかったと思う。そして、稽古の最後に必ず言われるのだ。

「お前の役目は嫁ぎ先の夫の子を、誰より早く産むこと。それだけです」

……ちびの頃は特に何も思わない――結婚の意味すらわからないでいたけど、だんだんわかるようになった祖母の言葉の意味。

茶山の家から嫁ぐような家は、名家であることがつきもの。

奥方以外に女性がいるのもザラだ。

だから、『誰よりも早く』と言った。『一番愛されなさい』や『大事にしてもらうのですよ』ではなくて。

現実だけを見せる祖母だった。

たった一つを除いては。