……けれど、雪のことを探ったことに後悔はしていない。
たった一度、助けてくれた友達。
何でもないことだ。入学式で、一人迷ってしまった調を、雪は導いてくれた。
迷わずに校内を歩く雪を、最初は上級生かと思った。訊いてみると同じ新入生で、どうして迷わないの? と尋ねれば、学校の地図が入学案内に載っていてそれを見たから、と答えがあった。
調もそれは見ていたけど、そんな詳細な地図ではなかっと思う……と、首を傾げた。
雪は調の一つ前の席だった。
何も言わずにいなくなった。
心配になって調べて――踏み込んではいけない領域を、知らず知らずにまたいでしまった。
世界ががらりと変わった、なんてことはなかった。
今まで歩いていた世界の隣にある世界を知っただけだった。
調はその、どちらにも足をかけて歩くことを始めた。
六年生のときに起こした事件は、特に理由はない。あえて言うなら暇つぶしだったかもしれない。
あの頃既に、蒼と衛に対するコンプレックスは大きくなっていたから。
怠惰に見えるくせに成績はトップで生徒からも教師からも信頼の厚い蒼と、一年生の頃からもう学内に敵うものはいないほどの空手少年だった衛。
いつも二人は正義の側、善の側にいて、それを代表することも統括することも出来ていた。
遠い存在だった。
実際には、調が二人に一番近い友達だった。
蒼の妹を除けば、蒼や衛と一緒にいた時間は調が一番長かった。