「どうしてそういう危ないことするの! そんなお偉い人に単騎で突っ込んでいくの!」
「あー、悪かったよ。でも昨日は急に行くこと決めたし……」
「ならわたしたちも呼んでよ! わたしと翠ちゃんも一緒に行くから! どこにいようが飛んでいくから!」
――そこだった。紫が怒っているのは。自分たちを――紫と翠を置いて向かったことに、紫は怒っていた。
紫は元凶の蒼を睨んだ。ふいっとそっぽを向かれた。おい待て。
「蒼ちゃん」
紫は睨んだまま目を逸らさない。蒼はだるそうな目で妹を見てきた。紫は真正面から問いかける。
「蒼ちゃんは何がしたいの」
「……何かしたいって言ったらどうする?」
「手伝う」
「……お前には出来ねーつったら?」
「蒼ちゃんには隠れて手伝う。わたしと翠ちゃんが今までどれだけ隠れてやってたか、知ってるでしょう」
「つまりそれ、隠れてねーけどな」
まあ、いいか、と蒼はいつものため息をついた。
諦めではなくて、妹を巻き込む腹を括ったときのため息だ。
蒼の眼光が月の光に似る。