『紫、一度見学とかさせてもらえないの?』
翠だった。当時この聖堂で、三人だけ同じ苗字を持つきょうだい。
『ああ、そうだな翠。もしそちらがよろしかったら、紫もその方が答えられんじゃないか?』
あくまで蒼は、紫に選ばせるつもりだった。
紫は――淋しい思いの反動で、詳しく知ることを望んだ。
蒼への意趣返しだったのかもしれない。
きょうだいの中で、一番幼いのも紫だった。今は蒼の背丈も抜いているけど。
その決断の良し悪しは、今でも悩む。
だってこんなのと逢ってしまったから。
「紫、大丈夫か?」
「作樹くんに心配されるほど落ちぶれちゃいない」
蒼の半狂乱を受けて、心配そうに見てくる流を睨みつける。この半ストーカーめ。
蒼が一番近い男の子で、蒼以上の存在を求めない紫に、隠すことなく好意を見せてくる流は鬱陶しかった。
自分なんかに構わないでもっと相応しい綺麗で可愛い女の子を相手にしていればいいのに。
わたしは蒼ちゃんと翠ちゃんが好きなの。流を視界から追い出し、兄を見やる。
「実験初代って、なに?」
「Pクラスって前からあるじゃんか」
紫と翠が口ぐちに言う。
蒼は、今度は長く息を吐いた。「衛しか知らないけど」、と。
「昨日、クソジジイ――天科全に逢って来た」
……天科?