騒ぎの中、翠たちは卒業式を迎え――蒼たちが入学した中等部に、調はいなかったそうだ。

兄の絶望といったらなかった。

桜学の捜索の手が廻って、調が発信元だと発覚していたのだ。

そして、警察に訴え出ない代わりに、中等部へは進学出来なかった。

蒼たちが調のしたことを知った中等部入学の日には、調を助ける手立てはもうなかった。

「雪は――研究生として、アメリカの研究機関にいると聞いている。それを、天科全という人が連れてくると……そういうことなのか?」

天科理事の名は、翠も知っていた。

何をどうしてか、ここ最近蒼がやたら敵視しているのだ。蒼の天敵と言うか――

「―――あんのクソジジイ!」

「わあっ!」

「な、なにっ? 蒼ちゃんっ?」

いきなり叫んだ蒼に、翠と紫が思わず悲鳴をあげてしまった。

あ、紫の硬直が融けている。蒼と衛も。

「ふざっけんなよ! 調だけじゃなくて雪まで巻き込む気かよ陰謀野郎!」

「あ、蒼……?」

恐る恐ると衛が声をかける。

蒼は本気で怒ってしまっているようだ。瞳孔が開いている。

翠は身震いした。あ、天科理事に怒っている……のか……?

「くそっ昨日もっとぶっ飛ばしときゃよかった! 衛! もう一回あのクソジジイんとこ行くぞ! 付き合え!」

怒鳴られて、むしろ衛は冷静になっている。