翠たちも当時からそうと知っていたわけではなく、いつの間にかいなくなっていた学友のことは時間とともに忘れていた。

六つか七つの子供で、一学年三百人以上いる上に二日しか在籍していなく、特別親しく話したわけでもない同級生。

クラスも違う。

雪がサヴァンだとは、やはり調から聞いたのだった。

確か、調と同じクラスになって二年目の、小学四年になった頃だ。

調はずっと雪のことを気にしていたらしい。

二日だけ在籍した初等部のクラスで、調は雪の後ろの席だった。

黒板を見るのに何も問題なかった――ことが問題だった。

雪はずーっと、机に突っ伏してぐーすか寝ていたそうだ。

変わった奴だな、くらいにしか思っていなくても、いきなり姿を消して、教師に訊いても転校したのよ、という返事しかなかった。

どこへ転校したか、どうして二日しかいなかったのかは教えてもらえなかった。

そのせいで、調にはやたら気がかりだったらしい。

調が――今、調のいる世界への一歩は、雪のことを調べていたことから始まる。
 
調は学園のデータベースに潜り込んで、雪に関する情報を探った。

そこで雪は、研究生兼被験者としてアメリカの研究機関にいると知った。

翠も、あとに蒼から聞いたのが総てだが、蒼と衛だけに調はそのことを打ち明けたそうだ。

データベースに違法に潜り込む。ハッキングをしたわけだ。

蒼と衛はカンカンに怒って、雪の件は見ないふりをするから二度と犯罪じみた真似をするなと叱責した。

しかし調はそこで収まりはしなかった。

六年生になった。

当時、政治家も関与する私立の学園の裏金問題が表面化して、マスメディアを賑わす騒ぎになっていた。

その発端が、調だった。

桜学ではない複数の学園のデータベースから、裏金のデータを集めて報道機関に送ったのだ。

これには最初、蒼も衛も、ましてや翠や紫も、調が関与しているとは考えつかなかった。

みんな、おー、なんかほかの学校が大変なことになってるぞー、くらいの傍観者だった。