だから、親を探そうとは考えなかった。
翠にとってはいなくていいものだったから。
冷たいと言われるかもしれない。親の心中を考えないのかと言われるかもしれない。
だから、なに?
子供は親を慕わなければいけないの? 産んでくれてありがとうと感謝しなければいけないの? 反抗期は大変な思いをさせるけど、結婚式とかで涙涙の手紙でありがとうとか伝えるの? あたしが「ありがとう」を言うべきは――言いたいのは、サクラ聖堂の家族だよ。
文句ある? あってもあたしの考えは変わらない。
あたしの世界はあたしが決める。
蒼が兄で、紫が姉で。それがあたしの家族だ。
幸せに生きているんだ。文句を言われる筋合いはないよ。
頼りになるくせに手のかかる兄と姉の世話で、手一杯だからね。
――そして今、頼りになる兄とその長年の相棒が、思考フリーズして間抜け面をさらしていた。
翠は同い年の姉に目を遣る。姉も固まっていた。
モリサキススキ――森崎雪。
翠も忘れられない名前だ。
最初の名前が『天科全』であることは疑いようがない。
天科全。桜学の理事の一人にしてPクラスの責任者――に二年前から就任していると、蒼から聞いていた。
「翠ちゃん、知ってる人なの?」
尊は不安そうに翠を見上げる。
蒼たちの反応に困惑しているのだろう。
うん、と翠は肯く。
「……雪は、初等部の入学式から二日だけ、桜学にいた生徒なんだ。帝や尊が知らないのも無理はない」
「二日だけ?」
流がオウム返しに問う。それって……事故か病気でも? と。翠は首を横に振る。