神林蒼、紫、翠は兄妹だ。
きょうだいとして育った三人だ。サクラ聖堂という孤児施設で。
名前のわからない子供は、施設長と同じ『神林』の苗字を名乗る。
蒼の名前も、紫も翠も、施設の先生たちがくれた名前だ。
色を示すお揃い感が、翠は嬉しかった。三人以外に、色の名前を持つきょうだいはいなかった。
同い年だけど、聖堂に来た順に、紫を上の妹、翠を下の妹と呼び分ける兄。
生まれた日なんてわからないから。
下にも弟妹はいるけど、紫と翠が一番に蒼に懐いていた。
きょうだいという感覚も、三人の間が一番強いと思う。
それぞれ十歳になったとき、どういう経緯でサクラ聖堂へやってきたかを施設長の先生から聞いた。
翠はやはり親なんかはわからないそうだ。見知らぬ親を恨んだことは、正直一度もなかった。
だって、いつもだるそうにしているけどかなり頼りになる兄がいて、外見も心持も、誰よりも美し過ぎる姉がいて、慕ってくれる弟妹たちがいる。
学校に行けば友達もいる。小学校から習い始めた空手では全国大会にも出られるようになった。
――こんな楽しい人生、ある? 自慢出来るくらい翠の世界は楽しかった。
だからむしろ、『親』という別世界の現実は、翠にはいらなかった。
翠が生きている現実と、『翠』ではない自分が生きていたかもしれない現実は、別のものだ。
翠がほしかったのは『翠』の命。