「要件はそれだけだ。ついでに言うと、もううちの生徒相手に喧嘩しないでもらえるとありがたいんだが」
……と言われましても。
「喧嘩とか、売られなきゃなんもしねーよ? 買うのは防衛のため。俺のスタンス」
「……そういう制約があるのか」
「せいやく? だって別に喧嘩して楽しいわけじゃないし」
衛の言葉の意味がわからない。ついでに『せいやく』の漢字もわからない。自分はバカだという認識ならある。
「じゃあ――なんで喧嘩すんだ? 草賀帝の名前は悪評持って響いてるぞ」
「………」
帝は面喰った。真っ直ぐそんなこと訊いてきた人、今までにいなかったから。
帝イコールそういう存在、の図式はもう成り立っている。
「……さあ」
咄嗟に出たのはそんな言葉だった。
本音であるところの、『妹を護るため』が、必ずしも当てはまるときばかりではない気がしたから。
昨日だって、尊はどこにも絡んでいない。
「ふうん。取り決めがあるなら、いい」
え? 衛の答えに帝は瞬いた。取り決め? そんなこと言ってないけど?
「とにかく、昨日の件はすまなかった。二度とうちの生徒が草賀に面倒をかけないように気を付ける」
じゃ、と衛に続いて、結局一言も口を開かなかった蒼も踵を返した。
下校組の生徒が何事かと見ているのはわかっていた。――あ。
「おいっ」