帝は、勉強はろくに出来ないし、粗暴者という噂の所為で部活も入れないでいたので、まさかそんな有名人が自分を待っているとも思わず素通りした。

くいっと、頭が後ろに引っ張られた。

「?」

後ろ襟首を誰かに掴まれたのだ。見遣ると、その指先は榊原衛のものだった。

「え、なに?」

言葉通り、この時の帝には困惑しかなかった。衛は鋭く見てくる。

「話がある。来い」

ヤンキーみたいな言葉で帝を連れ出そうとした衛。

蒼は無表情で、何を言いたいのか言う気もないのかもわからない顔をしている。

帝はその場を動かなかった。

「なんだよ。帰るとこなんだけど」

つっけんどんに返すと、衛の手が帝の腕を取った。

右腕を背中に捩じられて、背後に廻られた。

……はい? え、なに? 喧嘩売りにきたの? 買うよ?

「まずは謝罪しにきた。昨日、うちの生徒が草賀に迷惑をかけたようで。悪かった」

「……昨日? あ、すぐ逃げた人たちの中に桜学のひとがいたんだ?」

帝は昨日の生徒たちの制服なんて憶えていなかったけど、わざわざ謝罪に来るほどって。

なるほど。榊原衛とはそういう存在なのか。

「ああ。本人たちから、草賀への謝罪を引き出してきた。代わって俺から謝る」

「はあ……謝ってくれるのはいんだけど、なら手ぇ放してくんない? 謝ってる人のカッコじゃなくね?」

背後から腕を摑み上げている人が謝っているのって変な絵面な気がする。

衛はすぐに手を放した。帝は平静を装っていたけど、地味に痛かったので助かった。