「………」
在は普段は色々抜けていてぽやーっとしているくせに、時々もっともらしいことを言うから全は苦手だった。
……その実、蒼よりも策士で衛より喧嘩っ早く、腹の中に抱えているのは計り知れない。
普段の言動が相手を油断させるための演技と言われても、全は欠片も疑えない。
「ああ、家族のない貴方にはわからない感覚ですか?」
「………」
この外道が。腹で思っても口に出して言うか、タチ悪いな本当。
生家である天建家から籍を移された時点で、全は家族を失ったようなものだった。
天科の――遠い血縁であるけど――誰も、家族なんて感覚はない。
天建の家族は、本家の跡目になった全の将来を慮って、誰もいなくなってしまった。
全の方も、生家とその親族が天科に利用されたくなくて、連絡を取ることはしなかった。
「せいぜい、十三人があなたの願うようにあることを、祈ってることですね。俺らに言えた話じゃないですが」
言い残して、在は踵を返した。
全は何も返すことなく、ただ去っていく足音を聞いた。
今は欠けた、四つの足音。