「衛―、乱取りの相手してー」
「キメエんだよお前は! 翠のが相手してくれるだろ!」
「翠より衛のがいいー」
「俺は嫌だ!」
ここが住宅街を離れた場所じゃなかったら通報されていたかもしれない。応えるように翠が呟くのが聞こえた。
「あたしもやだな」
「翠! 助けろ!」
「衛が逃げきれない相手にあたしが勝てるわけないじゃん」
「がんばってくれ!」
「そう言わずにー」
「だから追うなー!」
衛と帝が騒いでいる間に、蒼は意識を完全回復していた。「う……んー、あー」と、軽く喉元を叩いて声を整える。
傍では流が心配そうに見ている。
そして回復してきた蒼を見て、「あ」と何か思いついたように口を開いた。
「ねえ蒼。今度紫をデートに誘いたいんだけど、お兄ちゃん的にはいい?」
「あ? 俺が口挟む方がおかしくないか?」
流の言葉に蒼はそつなく返すが、蒼の後ろの紫はモデルらしからぬイラッと顔を見せた。
「蒼ちゃん! そこはお兄ちゃんらしく妹かばってよ!」
「つーても紫。もうお前の嫁の貰い手が流くらいしかいないんだけど」
「何で結婚相手!? 気が早すぎだよ! しかもどういう意味だし!」
「お前みてーなめんどーなの好きになってくれた奴だぞ? 貴重な人類」
「じゃあわたしはお仕事と結婚するし!」
「なんでそこまで流を嫌がる」
「なんでそこまで作樹くん認めてる!」
流が双方から言葉の槍で刺されているんじゃないかな……。衛はその光景に口を挟むことなく見守っていた。
取りあえず帝から逃げるを続行しながら。
「あ、そだ。なーなー翠」