「じゃあ、殴らないにしてもどうにかして一撃与えたいわ」
「そうだなあ……。あ、和って普段は「あたし」なんだ?」
「へ?」
「一人称。昼間は「わたくし」って言ってたじゃん」
その方が可愛いよ。翠がサラリと言うと、今度は和の頬が染まった。
「う、あ、え、の……その、ごめんなさい……」
「なんで謝るんだ?」
つーか何言いてえんだ? 翠に言われて、和は小さくなった。
「その……態度を変えるような真似をして……。躾の厳しい家だったから……あたし、裏表が激しいのよ」
和は膝の上で組んだ手をもじもじさせて、身をちぢこませる。対して翠は、頭の後ろで両手を組んで背もたれに寄りかかった。
「ふーん? 別に、相手の立場で態度変えるのなんてふつーじゃん。気にするこたねえと思うよ?」
翠が気を害した風もなく言うと、和は気の抜けた顔をした。
「まあ、天科サンが気に喰わねえのはあたしも一緒だ。どっちがやるにしろ、算段企てるのはありだと思うぜ」