「和のその手は、人殴ったことなんてねえだろ。天科は黙って殴られてくれるようなヤワじゃねえよ。剣さんより上手だってんだから、尚更だ。立場上、逆襲はナシにしてもストレートに一発喰らってはくれねえ」

「じゃあこう斜めにいく?」

と、自分の右こぶしを斜め上に振ってみる。

「そういうレベルじゃ、ハナシになんねえってことだよ」

翠に一蹴されてしまった。

「……むー」

「可愛い顔してもダメ。とにかく、和に殴らせるくらいならあたしが殴る」

「……なんで翠さんならいいのよ」

和は自分で怒りを解消したかった。

なのに、それを無関係の翠に任せてしまうのは違う気がする。

不服を隠さない和に、翠はさわやかな顔で答えた。

「あたしはそういうヤツだから。乱暴者。そういう周囲の認識」

え。翠の答えに、和は牙をむく。

「それはダメよ! こんな優しい翠さんが乱暴者なわけないじゃない! 認識を改めるめるべきよ」

「お、おお……そんなこと言われんのは初めてだ。ちょっと照れるぞ」

さっきまで強気だった翠の頬が紅くなって、言葉も少しよどんだ。