「……わたくしの、家って……その、華道の家元なのよ。その所為で、おばあ様が勝手に天科家と結んだ話なの。あたしが生まれてすぐだと思うわ」

「はー。リアルであるんだなあ、そんな話」

「と言っても、あたしも婚約していることは知っていたけど、天科様と逢ったことはなかったわ。それで――昼に、恋様が恋人だったって訊いて、さっき天科様を訪ねて来たのよ。そうしたら……」

「そうしたら?」

その話題で、和、また火が点いてしまった。

「あんのサギ野郎、あたしのこと知らないって言ったのよ? 自分が天科一族を乗っ取ったときに古参たちが結んだ婚約まで解消するのを忘れていたって!」

「乗っ取りって……しかも知らなかったのか」

翠は、うわあ、という顔をする。

「ええ。自分の方からあたしのおばあ様には断りを入れておくと言っていたわ。恋様と結婚する気なんじゃないかしら」

「まあ、そうかもだろうけど……しかしひでえな、天科全」

翠も怒りが伝染したのか、自分の左手に右こぶしを打っている。にぶい音が何回もする。

「ええ。だから、ぶっ飛ばしたいの」

「なるほどわかった。じゃあ代わりにあたしが殴っておいてやるよ」

「え――なんで翠さんが?」