「あ、天科サンをぶっ飛ばしたいのか……?」
サクラ聖堂の敷地内にある、小さな教会の中。
長椅子に腰かけた翠は、隣に座る着物姿の和を、驚きを隠さず見た。
「ええ。長年悩まされたヤツよ。腹蹴りもいいかもしれないわね」
逢っていきなり聞かされたのは凶暴な話だった。
「いや待て。襲撃の算段整える前に、どうしてそんなことする気になったんだ? 昼間のことで怒り心頭になったとかか?」
「いいえ。……信じてくれないかもしれないけど………」
「信じるよ」
和が言いよどんでいると、翠はきっぱり言い切った。
その一言に力をもらって、和は口にする決心をした。
「わたくし、天科様の婚約者、だったのよ」
……翠はどう聞いただろうか。
こんな突飛な話、信じてもらえないんじゃないだろうか……揺れる和の声は、言いながらも困っているのがわかる。
「天科サンの? 和、天科サンと知り合いだったのか?」
翠は、己の言葉を貫いた。