「なら榊原か草賀にでも頼めばいいだろう。あいつらなら躊躇ないなく殴ってくる」
「あたしが殴りたいつってんでしょ! って言うかね! あたしの生きてる理由はあなたと結婚することだけだったのよ!? それをいきなり解消するって何事よ! しかも不手際で婚約やめるの忘れてたってどういう理由よ!」
「そういう理由だが。生きてる理由がほしいんなら何か探せばいいだろう」
「数秒前に生きてる理由をぶっ壊したあんたが言う!?」
「俺以外に言えた話じゃないだろ。……生涯かかりそうな理由なんかそこらに転がってるだろう」
「どこよ! 言っときますけど
「そういう風にクラスで喋れない理由とかか? クラスメイトに『わたくし』なんて言われたら、一般家庭の人間は反応に困る」
「―――――」
「落ち着いたか?」
落ち着いた――というか、和の悩みを射抜かれて、反論出来なかった。
「俺に苛ついているなら、がんばればいいんじゃないか? 生憎今回のPクラスは、俺に楯突くそうだからな」
怒りが拳から消える。代わりに、なにかがこみあげてきて唇を噛みしめた。
「婚約解消で、茶山のご当主から叱責なんかはいかないようにするから、そこは心配しなくていい」
「……わかりました」