紫が芸能界で、おおらかでなよやかなイメージを持たれていることは衛も知っている。
それこそ『なよ竹のかぐや姫』、なんて呼ばれていることも。
この騒ぎをすれば、それほど心を許していると思われているのだろう。皮肉だな。
「衛ちゃん! その変態と仲良く話さないで!」
「うわ、飛び火した」
衛が茶化すと紫に睨まれた。
意外と紫、悪女役とかハマるかもしれないな。清楚なイメージの裏返しで、カッコいい系になるかもしれない。
しかし流の扱いが気持ち悪いから変態に変わっているのは流が可哀想。
流が紫に惚れているといっても、やばいことをしているわけではない。
ただ紫が過剰反応しているだけだと衛は見ている。
「まもるーん!」
「げー」
聞いたことのないあだ名で呼ばれたと思ったら、こちらは正真正銘のストーカーが現れた。
何なんだ今日は。イベントは卒業式だけで十分だよと疲れ気味の衛。
蒼たちが来た方からこちらに向かってくる、超爽やかに手を振っているのは流にも負けない長身の男子。
傍らには小柄な女の子がいる。
草賀帝と双児の妹の尊。
「よー、尊。お目付け役お疲れさん」
「翠ちゃんもー。……上がこうだと下が大変なんだよね」
「なー」
三人きょうだいの下の妹という同じ立場の翠と尊は仲良しだった。
ちなみに尊が言った「こう」とは、見つけた衛を一目散に追っかけて、ダッシュで逃げられるがなおも追いかける兄のことだ。