「憶えてない? 雅が俺に懐いてきて、お母さんが冗談で『剣くんのお嫁さんにしてもらう?』って言ったら、雅が『うん』って肯いて」
剣が『お父さん』『お母さん』と呼ぶのは、雅の両親のことだった。
「そんなことあったのっ?」
雅はまるっきり知らない話だ。
「うん。そんで激怒りしたお父さんに、俺が怒られた」
「お父さん!? いつ? それいつ頃の話!?」
「んー? 雅が小学校入る前? さすがに五つ六つの子どもに、一回りも違う奴が惚れてますなんて言ったらヤバいからねー」
「あ、その時は否定したんだ? って言うか、だったら、その……いつから、今みたいに思ってくれてたの?」
「割と初めから」
「否定出来ないじゃん!」
「まあねー。なんか可愛かっただよねー、雅は。ずっと」
「う……」
「あ、雅限定だからね? 幼児好きとか異常嗜好じゃないから。お父さんにもね、一応言われた。もし雅が相応の年頃になって、自分から俺のとこに来てくれたら、そのときは反対しないって」
「………認めてくれるってこと?」
「そういうことで反対して、娘に嫌われたくなかったんだって」
「………じゃあ、ゆるしてくれるかな?」
「うん。きっと。明日、お母さんのとこに話しに行こうか」
「……うん」
「――雅」
剣の手が雅の頭に添えられて、引き寄せられた。
十年分の想いを伝えるために。