ソファの上に正座した雅を、剣は睨んできた。
雅は剣が話してくれたことがやたら嬉しくてはしゃいだ。
すると剣は呆れた顔で雅を見て来た。
『子どもはいいね』
『おにいちゃんはおとななの?』
虚を衝かれたような剣の顔は、今でも憶えている。
初めて見た、表情が変わった瞬間だった。
それからも何度か、剣は雅の家にやってきた。
だんだん剣の表情は増えて行った。
いつの間にか、微笑みが剣の常になるくらいに。
そして剣は雅の存在を、全と恋には隠し通した。
元より、家も遠いし父が連れて来ない限り、雅から逢いに行くことも出来る存在ではなかった。
何故かはわからないけど……。
二年半前、父が殉職して母親と二人暮らしになった。
母に親類縁者はいなかったため、剣が後見役になってくれてからも、全と恋に逢ったことはなかった。
「……雅」
「うん?」
「憶えてたの?」
「何を?」
「俺と結婚するって言ってお父さんに怒られたこと」
「………え?」
なにそれ。