「………」
剣が紅くなった。もっと触ってもいいのかな?
――思ったけど、この剣から目を逸らしてしまうのも惜しい気がして、雅は捉えたまま剣を見ていた。
十三人の中で、雅だけが昔の剣を知っている。
……父に見せてあげたい。随分穏やかな瞳をするようになったこの人を。
十三人には、『優秀過ぎる幼馴染が――』とか言っていたけど、剣の家は家庭環境が複雑だった。
家や学校へは天科全や猫柳恋が不完全ながら繋ぎ止めてくれていたのだけど、あまりよろしくない道にいたことは事実だ。
それを厳しく叱ったのが、警察で少年課にいた雅の父だった。
喧嘩なんかをしてよくしょっぴかれたそうだが、家に帰ることを拒んで、父が雅のいる家に連れてきたことがある。
初めて逢ったのがいつかは、もう憶えていない。気づけば剣はたまに家に来る人だった。
他にもそういう人はいたけど、その中で何故か雅は剣だけに懐いていた。
いつ逢ったかは憶えていないのに、初めて剣と逢ったとき交わした言葉はよく憶えていた。
母に訊くとそれは、雅が三歳で、剣が十五歳の頃だったそうだ。
ぶすっとしていて、顔や腕、見える肌には絆創膏や包帯の手当てがしてあって、目は吊り気味で冷えた眼差しだった。
雅も最初は怖かったのだけど、でも、傍を離れようとは思わなかった。
なんとなく、もう少し、近づいてみたかった。
無理矢理祀木の家に連れて来られたらしい剣がリビングで憮然と胡坐を組んでいるので、近くに座ってみた。
『……なに見下ろしてんの』
『しゃべった!』