「紫……揺らすな……気持ち悪い………」

「ごめんーっ!!」

蒼の首に若干、吉川線(よしかわせん)が出来つつあるのは気のせいだと思いたい衛だ。

「わー、賑やかだねー」

「お、問題児」

「何、衛のその反応」

衛と流との関係は、顔見知りの次はなんだろう、程度だ。

紫よりも上背のある、衛が今まで知る中で一番の『美形』だ。

茶色が勝っている髪は陽が当たれば煌めくほどで、キリッとした造りの目元はしかしいつも柔らかくて、その眼差しの通りの穏やかな中身。

男から見てもカッコいい見た目と性格。

――中学生で、もう『カッコいい』を超越しているような容姿の流だが、紫には『キモい』扱いされている。

なんでそこまで紫は流を嫌っているのだろうか。

訊いても紫は『だってキモいから』と喚くしかしない。よくわからない。紫は早速牙を剥いた。

「なんで作樹くんまで来るの!」

「え? うちの学校、昨日卒業式だったから、今日は引っ越ししてた」

「そういう意味だけじゃないんだけど!? あたしと同じ仕事ばっか取って来てなんの嫌がらせなのー!」

わーんと兄に泣きつく姿を、翠がオロオロしながら見ている。衛は流を見上げる。

「そうなん? 流ってそこまでストーカー気質なの?」

流は困ったように顔を歪めた。

「同じ仕事んとこ? ちょっと誤解。現場で、紫があの調子で俺に騒ぐからさ、仲いいと思われてスタッフさんとかマネージャーが同じ仕事取ってくんの」

「そういうことか。確かに普段の紫はあんな風に叫んだりしないもんな」