温度を取られたような声は、紫だった。

「勝手に、決められちゃって、それに従うくらいに、恋さんのこと、軽く見てたんですかっ?」

どこか切羽詰ったように、焦ったように問いかける。

紫は以前から恋のことを知っている。

翠が紫の身体の前に右腕を差し出した。これ以上は近づくな――進むなというように。

「………」

天科は憮然とした顔で答えない。その反応に紫は叫んだ。

「――天科さん!」

「紫」

蒼に、落ち着いた声で呼ばれて紫は身を震わせた。兄からの制止。これ以上、紫は踏み込めない。

……そう、意識が出来上がってしまっている。

「あんたは、何がしたいんですか?」

天科の左隣に立った蒼の言葉を受けてか、衛が進み出て蒼の反対側に立った。天科の右隣。

「あ?」

天科は斜めに蒼を見上げてくる。

「天科の家に入って、恋捨てて。あんた何したかったんすか?」

「何もねえよ」

「………は?」

天科は言い切った。何もない? 蒼は耳を疑う。

天科は不貞腐れたような顔で続けた。

「悪いが普通のガキなんて、お前らほど使命感持ってねえし、そもそもそんなもんに気づいてねえし、自分の道なんざ見つけてねえし敷いてもねえし――なんもないんだよ。真っ新なんだ。俺はそういう普通の側だったんだよ」