「……草賀兄以上の問題児だ。こいつは」
天科に名指しされた帝が、「え」という顔をした。引いている。引き合いに出されても困る、と顔に書いてある。
「あ、もうみんな、ゼンに喧嘩売っちゃってるから今更なんだけど、ゼン、翠より強いレベルの腕前だからリアルな喧嘩はしない方がいいよ?」
『………』
剣に言われると……妙に強い説得力で、心の中で肯いてしまう。
「天科――サン」
「あ?」
蒼が呼びかける。天科の反応が今までと違う。冷静さがないというか――らしくない。蒼たちが見ていた天科らしくない。
蒼は背筋を正した。
「なんで、恋に言わなかったんですか?」
「……いきなり決められたんだ。俺も跡継ぎだの本家に入るだの、全くそんな気はなかった」
「当時、天科の中枢がガタガタでね、親族間での内部闘争が勃発しちゃったんだよね。お家騒動ってやつ? その鎮圧と再生のために、本来は経営には関わりのないくらい傍系の位置にいたゼンに白羽の矢が立っちゃったんだ。『天建』はそんときの苗字だったんだよ。色々と成績あげてたからかなー」
「……十八のとき、急に跡取りになれとか言われて籍を移されたりした。レンには話す暇もなかったことは申し訳なく思っている。謝りに行ったらもうこのアホのせいで男装しやがってたし」
『………』
恋が男装に走った原因の一端は剣だったのか。気まずい沈黙が落ちる中、薄い声が響いた。
「……恋さんのこと、本気じゃなかったんですか?」