「え……天霧猫の『天』って――天科だったんすか!?」
帝が叫んだ。
その驚きはPクラス共通だ。
正体を知っていた白と尊から発信されて、同級生の間で天霧猫の本が廻し読みされていた。
尊の提言で、恋と剣であることはPクラスだけの秘密とされていたが、帝は勿論、以前から知っていたようだ。
十三人は適当な席について、剣は定位置のカウンターの中でお茶を淹れてくれている。
「そうだよー。その頃は養子に入る前で『天建全(あまだて ぜん)』だったんだけどね? ゼンは俺の幼馴染。んで、俺とレンは同級で友達だったの。その関係でゼンがレンの家庭教師やることになって、レンの彼氏になったんだー」
『………………………はあぁああああああああああ!?』
総スカンの勢いで悲鳴があがった。天科が恋の彼氏だった!? 恋があんな男装に走ったきっかけだって言う!?
「ケン……体裁悪いからそういうこと言うな……」
無理矢理――剣によって――カウンター席に座らされた天科は、机に片肘をついて顔を覆っている。
蒼はわかった。本物だ。剣のことを恋と同じように『ケン』と呼んだ。
「じゃ、じゃあ……結婚の約束までしてた恋をこっぴどく振って、完璧男装女子にしたのも天科さん……?」
蒼が、さすがに現状では信じきれなくて訊ねた。天科は俯いたままだ。
「ゼンはね、天科本家に、傍系から養子に入ったんだよねー。跡取りになるために。レンのこと、跡取りの嫁に認められんとか言われて別れたんだけど、最初ゼンがそういうの、レンには話さなくてねー。いきなり振られて、レンの落ち込みようと言ったらなかったよ?」
「あんた最低だな」
翠に冷たい声で言われても天科は、言い訳はしなかった。
「……ケン」