「他の人はいいのか? 放し飼いとか。なんで猫に敬語使ってるのかも疑問だよ」
「うん? って言うかむしろ、みんながハカセちょうだいとか言うから、ハカセの行動制限なくしただけだよ。行く先々でおやつもらったりぬくぬくさせてもらってたみたい」
「ハカセ、研究施設内のがすきじゃねえか」
「嫌いではないと思うけど、やっぱこういう緑の方がいいと思うんだよ。飼い主の責任もあるし。それにここ、色んな動物いるし」
「まあ……な」
衛が逃げるように視線を泳がせる。
山の中を切り開いて造られた城葉都市なので、名残で野生動物はちらほら見る。タヌキとウサギは毎日見る。たまにリスとかも。
「雪。お前が日本に来たのって、ハカセのためか?」
「え? なんで?」
今度は、雪は蒼の疑問に肯かなかった。
「ハカセを自由に遊べるところにいさせたかったんじゃないかなって。広いとこすきなのに木登り初めてってことは、雪がいたところは閉鎖的空間だったのか? と。ここは雪のいた学校だし勝手もわかってるし、そんな気がした」
先ほどの雪の言葉。雪は天科の誘い文句よりも、そちらに向ける瞳の方が優しく見えた。
「んー、五分五分? 天科サンに声かけられてなきゃこっち戻る考えもなかったと思うし。あと、あたり。あっちは庭もあるんだけど、ほとんど人工のものでね。セルンとは随分違うよ」
「………」
なんで欧州原子核研究機構の名前が出てくるんだ。こいつセルンにもいたのか?
あ、蒼―。と、雪から眠たげな声で呼ばれた。
「さっき、なんて言おうとしたの?」