住宅街を小走りで駆ける。

衛が私立の進学校に通っているのは、単に家から一番近かったからだ。

城葉都市は閉鎖的空間ではなく、広く一般の住宅やマンションもある。

が、やはり研究機関が多い土地柄で、在と衛の両親もその系列で働いていた。

整然と作られた広大な城葉研究都市の住宅街だが昔は山の中だったらしく、神社や旧いお堂なんかはそのまま残っている。

住宅街にいきなり小さな鎮守の森が現れたりするのだ。

孤児施設であるサクラ聖堂育ちの蒼やその妹たちが私立の名門校に通っているのは、聖堂と桜学の経営母体が同じで、サクラ聖堂以外にもいくつか孤児施設を抱えており、ある程度の人数枠が入学できるよう確保されている。

そしてそれは特待生という形になるので、成績もかなり取っていなければならないのだが。

「蒼―」

影は、ちょうど住宅街を外れた道祖神(どうそじん)の辺りを歩いていた。

三月でも今日は冷えるからか、マフラーに顔を埋めている学友を見止めて手を振った。

蒼は気だるげな動作で衛を見遣る。

「よー。悪ぃな」

「はい。物交」

軽い挨拶をしてきた蒼に衛が差し出したのは、蒼が持っているのと同じコンビニの小さな袋だった。

蒼は一度瞬く。それは蒼の問いかけだった。

「おにぎり。兄貴から。夜食にでもしろってさ」

「あー。さんきゅ。在兄(あたるにい)はいつも気が廻るよなー」

衛は、出がけに渡されたものと同じ袋を蒼と交換する。そこでふと気づいた。

「……賑やかだな、お前の後ろは」

「……電話終わったら姿現しやがった」

あ、怒ってる。だがそれは気づかなかった自分にか。

「蒼ちゃんずるっ! 在お兄ちゃんのだったらわたしもほしい!」

「衛―。蒼の分しかねーの?」