フロムムーンでの調理は総て剣が担当しているのは知っていたけど、恋が炊飯器の使い方も知らないと知ったときは驚いた。そんくらい小学生の俺でも知っていたわ。白の負担軽減のためにも、来てよかったと思いたい。って言うか、剣さん教えろよ。

【あおいくんにはすごく助けられてます。ありがとう】

「こちらこそ」

白の素直な礼に、蒼は素っ気なく返す。

蒼の、他人への関心のない様子にも慣れてきているのか、白は当初ほど困ったような顔はしなくなった。

最初の頃は、蒼が素っ気なくすると、白は目を泳がせて困惑し切りだったのだが。『蒼』という人間性を受け容れて来てくれているのだろうか。ありがとう。

【あおいくん、何してるの?】

ずーっと蒼が机とにらめっこをしているのを、蒼が顔をあげた隙に白が訊いて来た。

「うん? 嫌がらせの準備」

反応はなかった。妹たちも、蒼のいつもの行動に慣れ切っているので、特に何も言われなかった。

紫は変わらず白をなでなでしているし、翠は蒼の部屋に自分で勝手に持ち込んだ少年漫画や少女漫画を読んでいる。

こいつ、ここに居座る理由を勝手に作ってやがるな。武闘派の翠は意外と本好きだ。超雑食だが。

「紫、翠。もう帰れ。明日からはふつーに授業だし、紫は仕事あるし翠は部活始まんだろ」

翠は一般受験で入学しているが、部活動推薦の候補でもあったので――本人は紫と並ぶことを望んで辞退したが――空手部所属は決まっている。

「そうだね。帰ろっか、翠ちゃん」

「おう。じゃあな、白。蒼の面倒見よろしく~」

「白ちゃん、明日学校でね。蒼ちゃん、無理は禁物」

「わかったよ。程ほどにしておく。気をつけてな」

二人は口々に言って、玄関まで見送りした蒼と白に手を振る。

「うるさくて悪かったな、白。次からはフロムで駄弁ってろって言っとくから」