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「それでね、女の子たちに囲まれてたところを、雅ちゃんが助けてくれたの! カッコよかったなあ」

恋のマンションの蒼に当てられた部屋に来ていた紫は、瞳をキラキラさせながら報告してくれた。

フロムムーンから学校に戻り、それぞれ用のある場所へ向かうために別れたあと、紫はやはり女子生徒につかまっていたそうだ。

そこに雅がやってきて、華麗に助け出してくれたのだとか。

「そうか。よかったな」

机に広げたノートに向かったまま、蒼は返す。

「うん! 最初の日から素敵すぎ!」

「……そうだな」

わからなかった、天科の言動。その理由に触れた気がするが、答えは一層霧の中に散った気もする。天科は雪に、『桜学へ来ないか? そろそろ、普通の学生をやってもいいだろう』と誘ったそうだ。そして雪はそれに乗った。

「……普通のがくせい」

それは天科の言った一才発掘に逆行していないか? コンコンとシャーペンでノートをつつく。

「蒼ちゃん、また天科理事のこと?」

今度は肯きもせずにいると、頭に一撃喰らった。

「~~~翠」

「ああ、悪ぃ。起きてんのか不安になってな」

蒼の頭に本が一冊降って来た。不安になったんなら声掛け程度に留めてほしい。