「それでは始め!!」

森の中にアナウンスが響き渡る。
そしてそれは非戦闘時間の終わりを告げる戦闘開始の合図だ。
俺は南東方向の木々の上に隠れていた。
不意打ちを狙う。
と思ったんだがね。

「マジかよ………」

始め!の合図と共に四つの魔法がほぼ同時に発動した。
その魔法は密集している受験者を襲う。
十中八九、上位魔法だろう。
俺は防御を行って無事だが、フィールドの一部は焼け野原になったり、木々が薙ぎ倒されていたりとやりたい放題だ。

「初っ端からぶっ放すか………おっかねぇ」
火球(ファイアボール)!!」
「お?」

後方から不意打ちで魔法を撃たれたらしい。
が、それは俺が作り出した残像である。
もちろん、敵が来ていたことは把握済みだ。
蜃気楼と似たような物だ。
今、俺はファイアボールの術者の後ろにいる。
俺は人差し指を敵に指し、魔法を唱える。

火炎球(テオファイアボール)!」

直径1メートル程の火球が俺の指先に出現する。
ここまでされてやっと敵は俺が後ろにいることに気がついたようだがもう遅い。
火球はそのまま敵に激突し、炎を巻き上げる。
もちろん敵は、光の束となり結界外に送還されていった。
この間約3秒位だ。

これで撃破ポイント1か、先は長いな。
確か、最初の上級魔法で多分4割は撃破されてるんだよな。
急がなければ。
と思った矢先、氷魔法と炎魔法がぶつかる轟音が森に響いた。
炎魔法はおそらくシュルクなのだが……そのシュルクと属性の相性不利にも関わらず互角の魔法を撃ち出せる氷魔法の使い手か………。
ちょっくら見学に行くか。
俺はその爆発の方へと向かっていった。

到着するまで、俺は7人の受験者を返り討ちにしていた。
計8ポイントか、結構いいペースじゃないだろうか?
先程、戦闘している受験者が半分を切ったアナウンスが流れたしな。
そんなことより………。

火炎(ヘルファイア)!!!」

シュルクの剣から灼熱の炎が撃ち出される。
しかし、美しい水色の髪の女はそれを氷で包み込み、霧散させる。

氷結波(ブリザレイ)!!」

今度は女が氷の刃を撃ち出すが、シュルクはそれを剣で軽く受け流す。
面白いように攻守が切り替わっていた。
俺は木に登りつつ、観戦していた。
両者一歩も引かずに魔法の撃ち合いをしており、互角という言葉通りの戦いをしていた。
このままだと魔力量の差で勝負が決まるが俺がみるに、両者魔力量は相違ない。

「ヘルファイア!!」

シュルクが炎を撃ち出すがそれは一歩手前に命中する。
そして炎は分厚い壁を作る。
女は後ろに飛び退いて避けたが、それは悪手だった。

「貰ったよ!!!」

シュルクは、そう言いながら炎の中から炎を纏った剣を振りかざしながら女に突進していった。
敵に命中させなかったのは、炎の壁で敵の視覚を奪うためか。
しかし、そう簡単にも女も終わらない。

着地と同時に地面を触り、地面から氷の槍を数本シュルクに向かって刺し込む。
シュルクは、そのまま剣でぶった斬るがその時間があれば女はシュルクから距離を取るのに十分だったようだ。
身のこなしもいいようだな。

「君は強いね」

剣を構えながらシュルクはそう言う。

「………いえ」

そう、お淑やかな声で答える女。

「ここからは私も本気で戦います」

そう言うと手元に青い光の弓が出現した。

「弓を使うのかい?」
「?見れば分かるでしょう?」
「それもそうだね!」

シュルクは一瞬で距離を詰めて、斬りかかる。
が、女はそれを紙一重で後ろに飛び退き、3発ほどの青い光が矢の先端に集中している矢を放つ。
その矢は、右左上からシュルクを襲う。

「くっ!!」

辛うじて避けるが、矢が地面にぶつかった瞬間青い光が破裂して周囲を凍らせる。
シュルクの足は凍って地面とくっついていた。
女はシュルクの背後に飛び上がり、矢を構える。

「チェックメイトです」

ニコリと微笑んで、矢を放つ。
矢はシュルクの頭を貫通して、そのまま木に激突した。
その攻撃は、防御をしていないシュルクを脱落させるのに動作もなかったみたいだ。

「流石、炎魔法の名門であるライン家の者ですね。少々くたびれました」

そう言って片手で肩を揉みながら去って行った。