扉を開けると、立っていたのは二人の修道女だった。

 ――王妃の義姉達だ。

 二人は、自分たちを訪ねてきたのが誰なのか分かっているようで、リュンヌはともかく、カルケルが名乗るよりはやく、深く頭を下げる。

 面食らったカルケルが顔を上げてくれというと、二人はようやく……けれども恐る恐る頭を上げた。

「突然の訪問、申し訳ない。どうしても、二人に聞きたいことがあったので」
「とんでもございません。……わたくし共が分かる事でしたら、なんなりとお話しいたします」

 リュンヌとカルケルが聞きたいことは、一つだった。

 どうして過去、王妃に酷い事をしたのか――それだけだったが、義姉達の顔色はたちまち青ざめた。

 そして、醜い言い訳に聞こえるかもしれないが、と前置きし重く口を開いた。

「……わからないのです……」
「……わからない?」
「――自分たちがしでかした事なのに、なにを……と思われるでしょう? 当然です。わたくしたちだって、これが他人ならばそう思いましたし、憤りすら感じたでしょう。でも本当に、わからないんです」

 どうして彼女にだけ、あんな酷い事が出来たのか分からない。
 いまでも、どれだけ考えても、分からない。
 当時の自分たちの行いが信じられない。

 ――理解が出来ないほど、あの頃の自分たちは醜悪で、許されない罪を犯した。

 そう語る二人は、深く反省しているように見えた。

 ただひたすら贖罪の日々を送る彼女たちは、過去の行いを悔い、また過去の自分たちを恐れているようだった。
 
「幸い、寛大な王妃様はわたくしたちの事を許して下さいました。恐れ多くも、会いたいとすら言って下さいます。……ですが、酷い事をした過去は消えません。思い出し、深く傷つくかもしれません。それに、わたくしたちも顔を合わせた途端、また以前の悪魔のような自分たちに戻ってしまいそうで、恐ろしいのです……」

 二度と繰り返したくないと思うから、二人は王妃には会わない。
 手紙のやり取りにとどめている。それだけでも、身に余る事だと語る義姉達。

 話を聞いた時、リュンヌとカルケルは目配せした。
 同じだと。
 屋敷の前で会った女性と、同じだった。

「なぜあんな酷い事を平然と行えたのか。いつも考えるのですが、わからないのです。自分自身のことなのに、わからない……。わたくしたちは、そんな自分自身が恐ろしい……」

 直接害を加えてきた分、義姉達の方が混乱も自己嫌悪も大きかった。

 彼女たちは、生涯教会で過ごすつもりだと語った。贖罪のために生きると。

 ――リュンヌは、そんな姉妹達に、ある質問を投げかけた。

「貴方達の母親は、どこへ?」

 びくっと二人の肩が跳ねた。

「貴方達が教会から出ないのは、罪滅ぼしという意識はもちろん本当だけど、もう一つ……母親から自分たちを守るためよね」
「な、なにを……」
「自分たちを先導した母親だけが、姿を消した。……それに、何も感じないわけがないわよね」

 姉妹は顔を見合わせる。
 そして、覚悟を決めたように口を開いた。

「母親を庇っていると思われるかもしれません」
「あるいは、罪を軽くしたいがための、言い訳と思われるかもしれません」

 でも……と、姉妹は声を揃え言った。
 昔の母は、あんな風ではなかったと。