張り詰めたような静寂が支配する、王城。
柔らかい白色であるはずの城内の壁は、なぜかいつでもくすんで見える。
掃除を怠っているわけではない。手入れが行き届いていないわけでもない。
――全ては、呪われた灰かぶり王子が降らす、忌まわしい灰のせい……だと思っていた。
しかし、どうだろう。
灰かぶり王子は、先日から不在だというのに、城は少しも明るくならない。
ひたすら続くような薄暗さに、コントドーフェ王国の第二王子フラムは、チッと舌を鳴らした。
「――まぁ、どうなされました、王子様」
後ろに控えていた、ほっそりした肢体の女が、ひそやかにささやきかけてくる。
「……我が城には、あの忌まわしい灰が染みついてしまったようだ。どこにいても、心は晴れず、くすんだままだ」
苛立たしげに語れば、女はそっとフラムの肩に手を置いた。
「えぇ、そうでしょうとも。……王子様、何事も根本を絶たねば、よくはならないものです」
「……根本?」
「はい」
片眉を跳ねさせたフラムに、女は頷いた。
「以前、お伝えした通り。……灰の呪いは、やがてこの国を沈めるでしょう。だから、茨の森のおいぼれ魔女はさっさと逃げだし、姿を見せないのです。けれど、真実を知る王達は、ありもしない解呪にすがり、現実を見ようとしない」
緩く曲線を描く薄紅色の髪を揺らし、女は笑った。
「王子様、この国を救えるのは、貴方だけなのです」
視線を間近で合わせて、甘く優しく、ささやきかける。
一度、びくりと大きく肩を跳ねさせたフラムだったが、徐々に体から力を抜いていった。
「……そうだ……兄上は、呪われて……変わられた……」
その二つの眼も、だんだんと焦点を失っていく。
「えぇ。貴方の兄は、呪いにより心も歪み、復讐を目論んでいる」
「……守らなければ……」
「ええ、はい、そうなさいませ。……真の王たる貴方には、この国を守る資格がある」
「……王――」
「――災いである灰かぶりに、誰も手出し出来ぬなら……貴方がやらねば」
まるで、操糸が切れた人形のように、かくりとフラムの頭が下がる。
「――国を、守らなければ……」
うわごとのように繰り返す彼の目に、すでに光は無く……薄紅色の髪をした女は、それを満足そうに見つめていた。