「はあーあ。」

家を飛び出したのはいいが、行く当てがない。

申し訳ないが、今日は美紗の家にお世話になろうと思って、亜里香は歩き出した。

まだ数歩しか歩いていないのに、亜里香は急に腕をつかまれた。

「みーつけた。」

「はい…?」

亜里香は振り返った。そこにいたのは、めったに見ないようなイケメンで、

どこか金持ちそうな感じの、同い年くらいの男子だった。

「やっと会えた。俺の花嫁に。」

「へ?なになになになに!?怖いんですけど!」

「目が泣いてる…」

この人、耳ないの?目の前の人、めっちゃビビってんの、わかってる?

と、案外冷静な反応を心の中で亜里香はしていた。

「いったい、なんのまねですか?」

「お前は、俺の花嫁だ。ついてこい、守ってやる。」

「あの、とりあえずふつーにビビってるんで、失礼します!」

亜里香は走って角を曲がり、すぐに瞬間移動した。

「あれ…消えた⁉」

「何をなさっておられるのです、雄輝様。」

その青年の名前は、雄輝。

そして話しかけたのは、秘書の楠本だ。

「花嫁を…見つけた。」

「え‼どこです!?」

「それが…逃げられた…。」

「どういうことですか、雄輝様なら、簡単に捕まえられるでしょうに。」

楠本は、雄輝の力はあやかしで1番であることを知っていた。

そう、彼らはあやかし。その中でも一番の力を持つ、虎のあやかしである。

その能力ゆえ、あやかしは日本の上流階級を占めている。

そしてあやかしは基本、力が強いほど容姿も優れている。

つまり、女性に狙われやすいのだ。

しかし、あやかしは普通、人とは結婚しない。

ただ、例外がいる。それが、花嫁だ。

花嫁と結婚し、子供ができれば、より力の強いあやかしが生まれ、その一族は繫栄する。

花嫁が花嫁あらしめる理由は、いまだはっきりしない。

考えられていることは、性格などの相性が良いのだろう、ということくらいである。

なにしろあやかしと花嫁はほぼ必ず、いや、今のところ100%の確率で相思相愛になるのだ。

花嫁かそうでないかは、とりあえず、あやかしの直感でわかるらしい。

「なぜか、わからないからこまっているのだ。

驚いたのだろう、走ってここの角を曲がっていったのは確かだが、俺がここに来たら、いなかった。」

「あやかしではないはずなのに、おかしなことですね。

名前は?」

「すぐ逃げられたのだからわかるはずもない。

…だが、容姿ははっきり覚えている。」

「わかりました。お聞かせ願えれば、お調べ致します。」

「いや、自分でする。」

「かしこまりました。」

そういって、楠本は車のドアを開けた。」