「そうだよ。んーとね、どーしたものか…あ!」

亜里香は雄輝を連れて自分の部屋に戻り、

スーツケースから制鞄を取り出した。

魔力を集中させ、ねじった空間ごと鞄に入れってしまった。

「あ、いけたいけた」

亜里香はそのまま鞄ごと虎ノ門家の自室に移してしまった。

ついさっきまであったはずの鞄がなくなったのを見て、

雄輝はまたもや唖然としてしまった。

「鞄に移してそのままあたしの部屋に移したから。

運んでもらう必要もないよ。」

「そ、そうか。じゃあ、戻るぞ。荷物はすぐそこに置いて行け。

楠本の説明も終わっただろう。」

二人はリビングに戻った。

そこにいたのは、まだ何か言っている楠本と、なぜか縛られている母親と南乃花、

そして逃げ出さないかと護衛でもしているようなだが、普通にかわいらしい使役獣の子猫だった。

「どうした、楠本」

雄輝は驚きつつ、だが察したような顔で尋ねた。

「このお母さまが、落ち着いて話そうとする私に、

散々罵声を浴びせた挙句、私に突進してきそうになったので。

この娘の方も念のため。

これは亜里香様用の使役獣ですか?

自分から見張りをしてくれています。」

「ああ、そうか。亜里香、その使役獣は肌身離さず持っておけ。」

雄輝が使役獣を亜里香に渡した。

亜里香は大事そうに子猫をポケットにしまった。

「えーと、あ、そうですね、申し上げましたように、

本来なら花嫁様のご家族にはいろいろな支援がございますが、

亜里香様への不当な扱いを考慮しまして、一切なしとさせていただきます。」

楠本が淡々と告げる。

「支援?」

亜里香の母親がピクリと反応した。

「なに?何かもらえるの?」

期待顔の南乃花。

「それがなくなったと申し上げたのですが?」

楠本が丁寧に、だが鋭く睨みつけながら言った。

「話は以上です。では、失礼します。

雄輝様、亜里香様、戻りましょう。」

「ああ。」

雄輝が亜里香の手を取る。

その手は心地よい温度だった。