南乃花は怒りで真っ赤になった。

「そうやってお姉ちゃんは今まで南乃花を見下してたの?

だから、あんな目で見てたの?」

あんな目?亜里香には自覚がなかった。

「あんな目って?」

「いつも南乃花を馬鹿にしたような目で見るじゃない!」

亜里香は信じられないとため息をついた。

「あたしはあんたや母親(コイツ)みたいに、人を見下すような奴は嫌いなの。

どんだけあんたが嫌いでも、見下すなんてしなかった。

…憐れんでたんだよ。親の背中だけを見て育ったあんたを。」

今度は亜里香の母親が声を上げた。

「親の背中を見て育つことの、何がいけないの!?」

「別にそれがいけないとは言ってないじゃない。

でも、親の背中だけがすべてじゃない。

大事なのは、親を手本にすべきか、反面教師にすべきかの判断。

南乃花、あんたは親についていった。

私はそうしなかった。それだけ。

でも、だからこそ、あんたは甘やかされ続け、

あたしは厳しく当たられ続けた。

…それだけであたしよりあんたの方が勝っている、

いや、あんたがあたしを見下す理由にはならない。」

「なに?わたしがいけない母親だとでも?」

「もう終わりだ。きりがないだろう。

亜里香、荷物をまとめてこい。」

雄輝が割って入った。

「俺がついてく。楠本、後は頼んだ。」

「はあい。」

「かしこまりました。」




カチャ

「思ってた以上に、面倒な家族だな。」

雄輝がつぶやく。

「もう慣れたけど。でも、今まであたし、何も言ってこなかった。

この家族を抜けたら、行き先がなかったから。

でも、今は違うから、はじめて、本性丸出しで言いたいことを言えた。

…雄輝のおかげだね。」

「そうかもな。

それより、荷物片づけるの、手伝おうか?」

「大丈夫だよ。ほーら」

亜里香は杖を出して、くるっと回した。

スーツケースが飛び出て勝手に開き、洋服などがひとりでにたたまれて収納されていく。

スーツケースが閉じたときには、部屋にはベッドなどの家具以外、何もなかった。

「これで終わりか?」

圧倒されながら、雄輝が尋ねる。

「んーとね、一番大きい荷物が残ってるんだけど、

どうやって運ぼうかなあ?」

「なんだ?もう何もないぞ。」

「ん?見た方が早いか。」

亜里香は机の下に入り、壁をなぞった。

ドアが現れて、亜里香はそのドアを開けた。

「雄輝も来なよ。」

亜里香に促されるまま、雄輝も秘密基地に入っていった。

「え?なんだこれは?亜里香の部屋は、外に面していただろう?」

雄輝は唖然とした。ここは外に面した壁のはず。

つまり、中が空洞だったとしても、こんな広さがあるわけない。

「4次元だよ。魔法で空間を捻じ曲げた。

いろいろ自由が利かないから、5歳くらいの時に、

過去一魔力使って作った。ものを置けば置くほど、人が入れば入るほど、

人が壁に向かって歩けば歩くほど、広がっていくの。」

雄輝は驚きのあまり、ものも言えなかった。

「えー、なんかあたしドン引きされてる?」

亜里香は雄輝の前で手をひらひらと振った。

雄輝ははっと我に返った。

「えーと、一番でかい荷物って、もしかしてこの部屋か?」