亜里香は初めにクッキーを口に入れた。

「おいし…!」

バターの味がふわっと広がる。

そのバターだって、高級品なのだろう。上品な味がする。

亜里香は次々と出されたお菓子を平らげていった。

かつてないほどのスピードで食べ終えた亜里香は、暇だと思い、

例の四次元部屋から漫画を呼び寄せ、残りの時間を過ごすこととした。




コンコン

「失礼します。雄輝様がお呼びですので、応接室までご案内いたします。」

彩海が入ってきた。

「はあい。」

亜里香は彩海について、玄関の近くにある応接室へと向かった。

「失礼いたします。亜里香様をお連れいたしました。」

「入れ。虎山は下がっていいぞ。」

「はい、では失礼します。」

彩海は下がり、応接室には亜里香と雄輝だけが残された。

「まず、お前の家に荷物を取りに行かないといけないのだが、

その前に、確認しないといけないことがある。」

「はい、虎ノ門さま。」

亜里香は丁寧に答える。

「敬語はいらないといった。さっきあんなことも言えただろ。

それに、雄輝だ、呼び捨てでいい。」

亜里香はかあっと赤面した。

「あれは、ちょっと慌てたから…!」

フッと雄輝が笑った。

「それでいい。で、聞きたいことなのだが、

お前のことは調べさせてもらった。家庭状況も。

それらを踏まえて、お前の家族とは縁を切るのでいいか?」

亜里香は唖然とした。そんなに軽々と聞くものではないはずだ。

口を数回パクパクとした後、

「ん~、まあ、何でもいい。とにかく、あの家にはいたくない。

でも、今まで育ててもらったのも事実。」

と、心底どうでもよさそうに答えた。

「…そうか。じゃあ、それでいいな。」

「いいよ、これで南乃花の顔を見なくて済むし。」

雄輝は少し目を見開いた。

ここまでこういうことに関心のない人は初めて見たのだ。

だが、それでもちゃんと感謝できるとは、

どれだけ純粋な心を持っているのだろうかと思ったのだ。