「それに」

彩海が付け足す。

「そんな丁寧になさらなくてよろしいのです。

私たちは使用人ですから。顎で使っていただいたって結構でございますよ。」

「そんな、顎で使うなんて…!」

彩海は再びホホホと笑った。

「冗談でございますよ。

では、直ぐにお持ちしますね。」

半ば放心状態の亜里香をよそに、彩海は部屋を出ていった。

彩海が出て行って、亜里香は初めて部屋をきちんと見た。

何もかもがでかい。部屋は黒と白を基調とした洋室で、

基本的な(だけど大きい)、家具が置いてあるだけだった。

クローゼットを開けてみると、広い部屋の半分もあるウォークインクローゼットった。

こんな部屋に、というか、こんなバカでっかい屋敷にこれから本当に住むのかと思うと、実感がない。

あの秘密基地、どこに移そうかと考えていると、ノックする音が聞こえた。

「失礼いたします。お菓子とお茶、お持ちしました。」

そういって、彩海が入ってきた。

手に載ってるお盆には、おいしそうに点てられた抹茶と和菓子、

更にはクッキーとパイまであった。

「わぁー!すごい!

こんなにおやつ食べたの初めてです!

……しかも、好物だらけ!」

亜里香が感嘆の声を漏らした。

「お喜びいただいてうれしいです。

では、私は失礼いたします。」

彩海は、微笑んで、出ていった。