亜里香は今、虎ノ門家の別邸に来ていた。

「俺の家だ。今日からお前がここの女主人。好きに使え。」

別邸とはいえ、とんでもない広さである。

しかも、ここには雄輝と使用人しか住んでいない。

「好きに使うって…こんな広い屋敷、好きに使うのは不可能ね。」

亜里香の脳裏には、あの居心地のいい、四次元の秘密基地が浮かんでいた。

あれさえあれば、その他にスペースなんていらないというのが、亜里香の思いだった。

楠本が、きれいなしぐさでドアを開けると、そこには使用人らしき人たちがずらりと並んでいた。

「おかえりなさいませ、雄輝様。ようこそ虎ノ門家へ、亜里香様。」

使用人が一斉に頭を下げる。

「わたくし、使用人頭の虎牙(こが)と申します。

そしてこちらが、亜里香様専属の使用人となりました、虎山でございます。」

虎山(とらやま) 彩海(あやみ)と申します。

よろしくお願いいたします、亜里香様。」

美人な、メイドらしきひとが頭を下げる。

「あ、あの…こちらこそよろしくお願いします!」

しどろもどろになりつつ、亜里香も挨拶を返した。

「まずはお部屋へ、ご案内致します。」

なんだか高級旅館に泊まりに来たみたいだと思いながら、

亜里香は彩海さんについていった。

「こちらが亜里香様のお部屋となります。

一時間ほどしたらお呼びするように雄輝さまから仰せつかっておりますので、

また伺いますね。」

「あ、はい」

「なにかお茶菓子でも用意致しましょうか?

何がお好きですか?」

「えっと…好きな飲み物はココア、緑茶、抹茶。

お菓子だと、上生菓子と、洋菓子だとクッキーみたいに硬いたいタイプのものが。

すみません、なんかわがまま言って。」

亜里香は慣れない扱いに、戸惑ってしまった。

「いえ、それでよろしいのですよ。

虎ノ門 雄輝さまの花嫁でございますから。

全国民にわがままを言ってもいいくらいですよ。」

ホホホと上品に笑う彩海を見て、

亜里香の緊張が少しほぐれた。